いつだよ、ってくらい前のリクエストで『連載Fall in Loveの続き』です。
Aさん、申し訳ない。ジャンピング土下座ですm(_ _)m
続きってか、その後ってか。うん、そのへんです。
ご笑納頂ければ幸いでございます……。
では以下からどうぞ。
Fall inLove ~恋に落ちて
一人でも大丈夫。今までだってそうだった。だから平気。
だけど……
二人の心地よさを知ってしまったら。
心の中で何かが欠けてしまったように感じた。
田口が自宅へ戻り何の気無しにテレビをつけると昔のヒットナンバーが流れてきた。
女性のソロシンガーがピアノの弾き語りで、大ヒットしたナンバーを昔と変わらない綺麗な歌声で披露していた。
―――確かこの曲は…
ドラマの主題歌で、家庭のある男性を愛した女性の心情を歌い綴った、当時一世を風靡した曲だった。
その頃、田口はまだ学生でドラマには興味は無かったが曲は巷でよく流れていたから覚えていた。
「願いが叶うなら…か……」
溜め息のように歌詞の一節を呟いた。
長年の想いが実り、速水と恋人と呼べる関係になり3ヶ月だ経った。
その間、電話やメールのやり取りはあるが会えたのは1度だけ。これが一般的なサラリーマンなら都合の付けようもあるだろうが、職業柄…特に速水など休みなど無いに等しいものだから、休暇を合わせるのは至難の業だ。
田口にしても院長の策謀によって面倒事を押しつけられる事が多くなり、以前のようにのほほんと過ごす訳にもいかなくなっている。
もしも願いが叶うなら……
速水との時間を少しでも長く取りたい。
自分でもなんて乙女チックでわがままな願いかと呆れてしまい、苦笑して首を横に振った。
自分たちはもう、いい歳をした大人だ。どうにもならないわがままなど言えるはずもない。
田口はささやかな願いを自分の胸ひとつに納めた。
そこへ唐突に携帯が鳴った。…速水からだった。
まるで人の心を読んでいたかのような、このタイミング。これも呆れるほどの勘の良さ故なのか?
「もしもし?」
『よう、元気か?』
「ああ、どうにかな。お前は?」
『元気じゃないとやってやんねぇよ。』
と電話の向こうで速水がからりと笑った。相変わらずの調子でそして…良い声だ。
『今日はもう上がったのか?』
「うん、家でのんびりしてた。お前には悪いがな。」
『今日はこっちも平和だぞ。』
「そうか、よかったな。」
『ああ。』
会話がすこし途切れ、沈黙が落ちる。男同士じゃ睦言を交わす事もないし、恋人との会話に舞い上がって饒舌になる歳でもない。
『……なぁ、行灯。』
「ん?」
『会いたいな。』
ストレートな言葉は意外なくらい田口の心に刺さった。
「は、やみ……」
自分も素直になってしまえばいい。でも、言ってしまえば速水の枷になりそうで。それが嫌だった。
どうしても口に出せない願いがある。
本当は…毎日、四六時中、お前に会いたい。
『行灯?』
「あ、ああ、悪い。ちょっと電波が悪いみたいだ。」
『そうか?』
「なぁ、速水」
と問いかけたところで、電話の向こうが騒がしくなった。
『おっと、コールだ。間が悪いな。』
「仕方ない。患者は待ってくれないからな。」
『だな。じゃあな、また』
「ああ。」
と呆気なく通話は切られた。
田口はしばらく携帯を見つめたが、放り出すとそのまま布団へと寝転がった。
―――俺は…後悔してるのか?速水との事を……
そんな事は無い。すべて承知の上だったはずだ。
ただ… ただ……
ああ…… これが『寂しさ』なのか。
まるで自分の半身を失ってしまったかのような喪失感。
会いたいという焦るような切望。
そう知ってしまうと…田口は途方に暮れてしまった。
「……会いたい…な」
一言呟いてしまうと得も言われぬ感情が沸き上がって、気付けば投げ出した携帯を握りしめていた。
「俺だって…会いたいさ。……会いたい…」
こぼれる言葉と共に、少しだけ涙腺が脆くなっていた。
速水は処置室から出るとどさりと椅子に座り込んだ。
緊急ではあったが、大事には至らず患者の容態も安定した。間違いなくあの患者は助かるだろう。
なんの気なしに携帯を見るとメールが一通。
それは田口からで、受信時間からさほど経っていない。話したばかりで珍しいと思いながら開いてみれば。
『会いたい』
のたった一言。こんなメールは初めてだ。
速水はしばらく考えて、田口のアドレスを呼び出した。
呼び出し音は待たされなかった。
「行灯?」
『…はや、み』
「どうした?何かあったのか?」
『……。』
顔が見えないのが、触れられないのがもどかしかった。こんな時、近くにいればすぐに飛んでいって抱き締めてやれるのに…。
速水が奥歯を噛みしめていると、田口の心許ない声が聞こえた。
『…わがまま……言ってもいいか?』
「なんだ?言ってみろよ。」
少し間を空けて、田口が呟いた。
『…会いたいよ‥俺も 会いたいんだ。』
「た、ぐち… お前」
―――それがお前のわがままなのか?
速水はその言葉を飲み込んだ。田口の口調が軽口を止めさせた。
『本当は言いたかったけど…どうにもならない事だし、言っても仕方ないと思ってた。こういう形の結論を出したのは俺なのにな。』
「…うん」
―――お前だけじゃなく、俺だってそれを納得して受け入れたんだ。
『でも…』
速水は黙って次の言葉を待った。
『でも…無性に会いたくなるんだ。その……お前と過ごす時間を知ってしまってから…一人が物足りない、って言うか…』
「そう、か…」
速水の鼓動が少しだけ速まった。
―――まるで愛の告白みたいだな。
すごい殺し文句を聞いた気がした。自分との時間をそれほどまでに待ちわび、大切に思ってくれていたなんて。
田口は何気なくこぼした本音なのだろうが、それが速水にとってはこの上ない一撃を食らった感じだ。
『速水?』
「あ、ああ、聞こえてる。…お前、そりゃわがままの内に入らないぞ。そんな事言ったら、俺なんかわがまま言いっぱなしじゃないか。」
『お前はいいんだよ。いつでも物分かりの良い速水なんて…お前じゃないよ。』
「…何かさりげなく酷くないか?」
速水が憮然と答えると、電話の向こうで小さく笑われた。少しだけ軽くなった口調に安心して速水は話を続ける。
「じゃあこっちに来いよ。俺はなかなかここを離れられないからさ。」
『ほら、またそういう…』
「な?これがわがままってもんだ。」
『……自慢げに言うな。』
「お前ももっと欲だせよ。何でもかんでも自己完結すんのはお前の悪い癖だ。」
『そう、か?そんなつもりは無いんだけどな。』
田口の困った顔が見えるようだ。速水は小さく笑ってしまった。
「なぁ、俺たち恋人だよな?」
『え…うん……』
「なら、会いたいって思うのは普通だろ?だから…こんなのはわがままじゃないんだ。会いたい、抱き合いたいって思うのが恋人同士だろ。」
『…そうだな。』
田口の口調から切羽詰まった雰囲気が取れた。
『これが…恋……なんだな。』
「え?」
速水は思わず聞き返してしまった。
「え、何て」
『えっ!な、なんでもない!あ、もうこんな時間だから切るぞ!…じゃあ、またなっ』
田口は慌てて通話を切ってしまい、速水は携帯を握ったまましばらく唖然としていた。
―――なんて恥ずかしい事を言ったんだ、俺は!
赤面ものだ。四十男の言う台詞じゃない、と勢いよく枕に顔を埋めた。
―――でも、本当にそう思ったんだ。
会いたい、触れ合いたい…いつも見ていたい。
そして会えない辛さと寂しさ、もどかしさ。
それを乗り越えての再会の歓び。
これが恋なのかと再認識した。
甘いばかりが恋ではない。負の感情も含めてこその恋心。
この歳になって体験して初めて解った気がした。
―――来週あたり行ってもいいかな。
会いたいと思う気持ちが自然なら行動してもおかしくない。速水が動けないなら自分が動けばいい、と。
恋に落ちた男なんてこんなものなのか…と田口は笑ってしまったが、それは思いの外くすぐったく、心地良かった。
ご希望に添えているかどうか…(汗)。ただ行灯は我慢しすぎて、自己完結型だと当方では認識。
最後、思いの外くすぐったかったのは書いてる本人も一緒でした^^ヾ
