『ラブラブなしょうどん』と言うお題を頂戴しました。
が…ラブラブは速水の妄想内で繰り広げられております(苦笑)。速水、がっつり妄想族です。
リク主のNさま、よろしくご笑納下さい。
Sweet Sweet Home
田口の部屋に何故か住宅情報誌が置いてある。
「なんだ行灯、引っ越すのか?」
速水が台所にいる田口に聞いた。
「ん?何の話だ?」
「ほら、この情報誌。」
「ああ、それフリーペーパー。この前外で暇つぶしに取って来たヤツだ。」
表紙を見ると確かに『Free』と書いてあった。
速水は何の気なしにパラパラとページをめくって見る。所詮フリーペーパーだからそんなに高額な物件は載っていないが、こういう物に普段は目を通さないから珍しい。
―――行灯もこんな古いとこから引っ越せばいいのに。
ずぼら男の独り暮らしなんてどんな部屋でも同じなのだろうが、田口の部屋はかなり草臥れていると思う。第一壁が薄そうで、夜の営みにひどく気を使ってしまう。
新築マンションとは言わないが、もっとちゃんとした部屋ならもう少し派手にイチャつけるのに…。いっそ二人で住みたいよな…と思う速水の妄想に火が点いた!
《以下、速水妄想中》
「おい速水、起きろよ。」
行灯がエプロン姿で俺を起こしに来る。リビングからは焼けたトーストとコーヒーの香りがしている。
今日は行灯が休みで俺は通常運転。こんな日は行灯がきちんと朝飯を作って俺を送り出してくれる。…最高の幸せだ。
「ん…おはよ、行灯」
「おはよう。飯出来てるぞ。」
そう言いながら行灯が笑顔で俺の顔をのぞき込む。その顔も堪らないが、隠れる首筋ギリギリに残る昨夜刻んだ愛の証が俺を満足させる。
早く起きろよ、と言い残して去ろうとする行灯の手首を取って身体を抱き込む。散々可愛がった行灯の身体はいつもの朝より敏感。
「…あ」
背筋をすっと撫で上げると僅かに身震いして切ない声があがる。さすがに本番とはいかないので俺の目覚まし代わりに深いキスを仕掛けた。それは行灯の入れるコーヒーより濃くて魅惑的な味だ。
おはようのキスがあるなら、いってきますのキスだって当然だ。
「じゃ、行ってくる。」
「ああ。今日は平和だといいな。」
お前がそう言うならきっと今日は厄介な事は無いだろう。早く帰っていろんな意味で仲良く夜を過ごしたい…。
「おい、行灯」
そう言って手招きすれば無防備に近付く。コイツ、俺がいない間に誰かに呼ばれたらホイホイ寄って行っていろいろ奪われないか?……心配になる。
しかしそれよりも今はいってらっしゃいのキスが重要だ。俺は行灯の頬を両手で包み、起き抜けの同様の熱いキスを贈る。貪るように唇を味わい尽くせば行灯は玄関先で腰を抜かして座り込んだ。
「も、もう、何だよっ!」
文句を言っても潤んだ瞳と上気した顔が怒っているようには見えない。とても艶っぽくて朝も昼も夜も、上半身も下半身も元気いっぱい!ヤル気満々だ!
今日も一日、良い仕事が出来そうだった。
そして夜。今日は行灯の願い通り平和な一日だった。急患も少なく、手の掛かる患者もいない。こんな日に家に帰らない手はない。帰るメールをして、佐藤ちゃんにさっさと後を任せて家路に着く。帰れば行灯が待っている…と思うとうっかりスキップでもしてしまいそうだ。
部屋のドアノブに手を掛けると…案の定カギが掛かっていない。アイツはいつも危機管理能力が低すぎる。見知らぬ男が入って来て襲われたらどうするつもりなんだ!もちろんそんな奴は俺が地の果てまで追いつめてボコボコにして、桜宮の岬から投棄してやる。
「あ、おかえり速水!」
ふんわりした笑顔に迎えられれば、俺の危険な思想もあっと言う間に霧散する。が、一応釘は刺しておく。
「おい、家にいる時もカギ掛けとけよ。不用心だ。」
と言えば行灯に意外な反撃を食らった。
「お前さぁ…今日カギ忘れてったって気付いてないのかよ?」
「あ…」
「さっきメールをもらってからカギ開けて待ってたんだぞ。」
「……すまん。」
「そら、わかったらさっさと上がって飯にしよう。」
スタスタと奥へ下がってしまう行灯の背を見つめて…俺は感極まる。
―――待ってた…だと?そうかそうか、俺の帰りを待ちわびていたのか、この!なんて可愛いんだ!!
玄関先で鼻血でも出そうなくらい顔が熱くなって、ついでに他の部分も熱くなる。
やばい、腹も減っているが猛烈に行灯も食いたい。しかし飯の前になだれ込めば絶対に怒る。以前も我慢できずにキッチンで襲ったらしばらく家から追い出されてオレンジで暮らす羽目になった。やはりそれだけは避けたい。
逸る心と身体をぐっと押さえて食卓に着くと、今日のメニューはご飯と味噌汁、サラダと生姜焼き。家庭料理っぽいのが何とも嬉しい。エプロンをしながら動く行灯を見て、専業主夫になってくれればいいのにと思いながら箸を取った。
食後のコーヒーも飲み終わり、後は風呂に入って寝室で…だ。
「風呂どうする?一緒に入るか?」
と聞けば断固として拒否された。…ちょっと傷付く。確かに一緒に入れば洗うだけじゃ済まない。昨日だって風呂から続けて三回戦だったし…本当は俺はもっとしたかったけど、行灯が意識飛ばしたんじゃ仕方なかった。
明日はアイツも通常運転だから無茶はしたくないのはよく分かるから我慢してやった。
行灯が上がって俺も手早く風呂を済ます。一刻も早く行灯を抱きたい。今日は早く帰れたが、明日は分からない。明後日だってその次だって…またオレンジに籠もる日が続くかもしれないと思うと一回でも多く行灯と肌を重ねたい。
「…行灯」
「はや、み…」
寝室の薄闇で呼ぶ声が妖しく掠れる。今夜も抱かれるのが分かっているのだろう、息遣いが少し乱れている。
俺は行灯をベッドに組み敷いて、熱いキスを贈った。そしてパジャマ代わりのシャツを脱がせてその胸の……
「おい、速水。何ニヤけてるんだ、気持ち悪い。」
突然声を掛けられて、速水はハッと我に返った。見回せばそこは当然いつもの田口の部屋。ちょっと乱雑な年季の入った部屋だ。住宅情報誌を見ながらうっかり妄想モードに入っていたようだった。
「何かいい物件でもあったのか?」
台所から茹でた素麺を持ってくる田口に速水は思わず
「もし引っ越すなら広い完全防音の寝室にデカいキングサイズのベッドを置くぞ!」
と叫んだ。
さっぱり訳の分からない田口がきょとんとして「お前、何言ってんだ?」と言いながら部屋に入ろうとした時、小さな段差につまずいて素麺を速水の頭上にぶちまけたのは、頭を冷やせと言う天罰だったに違いない。
おしまい
速水も暑さでやられたんでしょうね~。