てなワケで、今日は3話目。最終回です。
終わり方が無理矢理っぽいんですが、あまり長い連載は終わりが見えなくて困るのでここで終止符です。
もう少し書きたい小話がありますが、それは番外編てことで日の目を見るかもしれません。
取りあえずおチビさん達はここまで。
では以下からどうぞww
Little Panic 3
その日の晩は再び速水の部長室でチビ田口達を預かることとなった。
愚痴外来に放置なんて以ての外だし、かと言って藤原に連れて帰ってもらう訳にもいかない。
まぁ、速水としては小さくなっても恋人と一緒にいられるのだから文句などあるはずもなかった。
早朝と違って人目も多くダンボールで運ぶ訳にも行かないので、3人をそれぞれ白衣のポケットに入れて速水は部長室へと滑り込んだ。
「お前はあんまり話さないんだな?」
速水が呟く視線の先には小さいながらも一生懸命文庫本のページを追うツンの田口がいる。
一番お喋りで表現表情が豊かなのはデレ田口。ふわふわのは話はしないがいつもニコニコとしている。
しかしツン田口はほとんど表情も変えず、速水にもあまり近寄らないし甘える素振りも無い。
田口には確かにそういう一面もあるのは知っている。自分が嫌だと思えば徹底して拒絶、もしくは無視を決め込む頑固さがある。
「お前には…嫌われたかなぁ?」
そう思うと速水はちょっと凹む。田口の性格の一部が突出しているだけだと分かっていても、あまり顔も見ない目も合わせないとなるとさすがに堪える。
思わず大きく嘆息してしまうのだった。
そこへ緊急の呼び出しが掛かる。凹んでなどいられない修羅場がやって来るのだ。
「いいか?俺がいない間にドアが開いても勝手に出るなよ?」
昼間の事があるので、そう言い残して速水は部屋を出て行った。
ツン田口は黙ってそれを見送り、今度は彼が小さな小さな溜め息をついた。
速水が戻って来たのはそれから2時間ほどしてからだった。
ひと仕事終えて部屋で目にしたのは、チビ田口の内2人がソファでスヤスヤと寝ている姿。互いに身を寄せあった愛らしい姿に、疲れた速水の顔もつい綻ぶ。
「…ったく、しょうがないな。」
と言いながら布団代わりにタオルケットを掛けてやった。
「こら、お前もそろそろ寝ろよ?」
起きていたのはもちろんツン田口だった。まさに本好き夜更かしの田口だ。本から顔を上げようとしないので、速水はわざとのぞき込んだ。
「あ~んどん、寝ろよ。」
速水がそこで見た田口の顔は…目を伏せて、少し心細げな表情。
「行灯…お前……」
こんな顔の時をよく知っている。
「お前、不安なんだな?」
もちろん答えはない。それも大きな田口と変わらない。不安な事があっても口に出さず、自己完結してしまう癖があるのだ。
速水はツンの田口を持ち上げて机上に座らせ、自分は椅子に座って顔を近づけた。
「そっかぁ…お前が一番田口のオリジナルの理性に近いのかもしれないな。」
そっと指先で田口の頬を撫でるが、それをツン田口は嫌がらなかった。
「そりゃ不安だよな、こんな訳の分からない状況は。」
嫌がらないので速水は更に小さな背中を撫でる。ツン田口は一瞬びくりとしたが、それでも行為を受け入れた。
「なぁ…お前は俺の事、好きか?」
速水にも不安があるのだ。もしかしたら田口の中に自分を疎ましく思う気持ちがあるのではないか、と。
自分は全身全霊をかけて田口の事を愛している。それは揺らぐ事はないし、仮初めにも嫌いだと思った事もない。
しかし田口はどうなんだろう。ごくたまに田口の気持ちが見えない事がある。今までのツン田口を見ていて、ふと気持ちが揺れた。しかし今は速水の行動を許している。
この田口の気持ちが掴みきれなかった。
すると……
ツン田口がおもむろに動き速水の手にしがみ付いた。
ぎゅっと力一杯、一生懸命に速水の手に全身でしがみ付いたのだ。
「あん、どん?」
声を掛ければ更に強く…。もう一度顔を覗くと、目を瞑ってその小さな目尻にはほんの僅かに光るものがある。
「もしかしてお前……寂しかった?俺があんまり触れないから?」
少しだけ呆然とした問いに、ツン田口はそれはそれは小さく…よく見ないと気付かないくらいに頷いたのだった。
「じゃあ、俺の事は好きなんだな?」
これにもツン田口は少し躊躇しながらも頷いた。顔は伏せているが、耳が赤いので照れているのは間違いない。
―――か、可愛すぎるっ!!これがウワサの『ツンデレ』ってやつなのか!
凹んでいた気分はどこへやら。速水は思わずツン田口を掴んで頬ずりしてしまった。
「すっげー嬉しい!」
深夜の部長室はにわかに春爛漫状態となった。
その夜の仮眠で速水はツン田口を放さなかった。抱き締めて寝る訳にはいかないので、白衣の胸ポケットに入れてその上から大事に手を添えた。
最初は抵抗していたツン田口だったが、添えられた手が温かく安堵感には逆らえなかった。しばらくすると速水の白衣を握りしめて眠ってしまった。
その顔を見て速水は幸せそうに笑ったのだった。
しかし……終わりは唐突にやってくる。
一週間もしたある夜。部長室で田口は元の姿に戻った。
きょとんとした田口を、速水は歓喜の雄叫びで抱き締める。
3人に分かれた田口もそれぞれ可愛かったが、可愛すぎるのも困る。こちらの心身が保たない。
田口はやっぱり1人でいい。
3つの性格が程々に混ざってこその田口公平なのだから。
ツンもデレもふわふわも…何事においても程々が肝心だとつくづく思う速水だった。
おしまい
行灯一人でも可愛くて仕方ないのに、3倍になったらいろんな意味で身体も心もパーン!になっちゃうんでしょうね、将軍は(笑)。
お馬鹿な話にお付き合い、ありがとうございましたw