今日の更新はまたもや天ジュノです。
つぶやきのほうでもリクエスト&Nさんへのお誕生日プレゼントってことで。
天城×世良ちゃんですので、お好みの方のみ以下からどうぞ。
あ、拍手もありがとうございますw
お返事は…すんません、また後日で;;
N島さん、お誕生日おめでとうございますww(1日早いけど;;)
甘い春
最近の世良は疲れていた。
現在の上司であり恋人でもある天城と違って、まだキャリアの浅い世良は何かと雑事が降り掛かってくる。
そして夜は夜で、天城のおかげでなかなか満足な睡眠がとれない。
何とか若さと持ち前のタフな精神力でカバーしてきたが、さすがにそれも限界だった。
一日の仕事が終わると疲れ果てた身体を引きずって家へと帰る。最近は天城の部屋に住んでいるも同然だったが、今日くらいは自宅で一人で横になりたい。
明日はやっと休みだ。そう思ったら少しだけ気が緩んだ。
そして……部屋の扉を開けたところで意識が途切れた。
世良が目覚めたのはベッドの上だった。
しかもそこは極上の感触と嗅ぎ慣れた甘い香り……天城の香りだ。
確か自分の部屋に帰ったはずなのに…?
ゆっくりと起きると眠りが深かったせいか、身体のだるさは一掃されていた。大きく伸びをすると更に爽快だった。
「ジュノ、起きたかい?」
「あ…先生。」
「まったく君は…吃驚したぞ?」
「え?な、何か……?」
天城は呆れた顔で首を振り、ベッドサイドに腰掛けた。
「昨日帰って来て玄関を開けたら君が倒れていた。」
「えっ?!」
どうやら自宅へ帰るつもりが、自然と足が天城の家へと向かっていたらしい。…赤面ものだ。
「驚いて抱き上げるとそれはもう、見事な寝入りっぷりでね。呆れて言葉が出ないとはまさにあの事だ。」
「す、すみませんっ!最近疲れてて……」
「あまり心配させないくれ。倒れてる君を見た瞬間、私は……」
天城は世良の髪を撫でるとそれ以上何も言わず、部屋を出て行ってしまった。
「先生…」
絶対にあれは怒っている。世良は心配を掛けてしまった自覚はあるので、誠心誠意謝るしかない。
衣服を整えてリビングに行くと、天城がソファに座って新聞を読んでいる背が見えた。
世良はキッチンで天城がお気に入りの紅茶とビスキュイの準備をして運んだ。
「先生…」
「……。」
「ごめんなさい、先生。きちんと体調管理して休める時は休みます。」
「…体調だけでなく、仕事も管理したまえ。君がしなくてもいい雑用だってあるんじゃないのか?」
「俺はまだ先生ほど偉くありませんから、色々とあるんです。」
「君の上司は私だぞ?私の許可無くジュノを使うなんて許される事ではない。」
「せ、先生。」
これ以上この件に関して続ければ、天城は様々な方面にねじ込みかねない。本当にそれをしてのけるので、世良は宥めるのに必死になった。
しかしその反面、自分の事を心配してくれるのを嬉しく思い、そしてお気に入りのオモチャを横取りされるのを嫌うような子供っぽい感情が可愛らしい人だとも思ってしまった。
世良は背後から抱きつき、天城の首筋に顔を埋めた。
「心配して下さってありがとうございます。今日は…先生の言うことを何でも聞きますから、機嫌直して下さい。」
「ジュノ?」
「せっかくの休みなのに、先生が不機嫌じゃ困ります。」
世良は更に強く天城を抱き締めた。
「…ずるいぞ、ジュノ。そんな甘え方は反則技だ。」
「いいじゃないですか。」
文句を言いながらも天城の声が優しくなっているのが分かった。
「……何でも言うことを聞くと言ったね、ジュノ?」
「あ、はい。」
「身体はもう大丈夫だね?」
「ええ?」
一晩ぐっすりと眠ったので嘘ではなかった。
「それなら…花見に行こう。」
「え?はな‥み…ですか?」
しかし、そろそろ花の盛りは過ぎているはずだ。病院の桜並木も花吹雪が舞っていたのを知っている。
「そこの神社に遅咲きのしだれ桜がある。それを見に行こう。」
天城がそんなスポットを知っているとは意外だったが、多分すぐ目と鼻の先の桜神宮のことだろう。そこなら病院からの帰り道だから天城が知っていてもおかしくはなかった。
「…分かりました、行きましょう。」
世良は喜んで返事をした。
外に出てみれば風も無く、青い空が爽快だった。
「今日は温かいですね。」
二人とも春の薄手の装いで丁度よい陽気だ。平日の昼の神宮は人影も無く、ひっそりとしている。
「うわぁ…綺麗ですね!」
「だろう?」
目の前に現れたしだれ桜は今が盛りだった。
幹はまだそれほど太くはないが、枝振りや咲く花に勢いがあって美事だ。
真下にあるベンチに腰掛けると、桜のカーテンの中に入ったようだった。
「こんなに素敵な所があったなんて気付かなかったな。」
桜宮に何年もいながら、世良はまったく知らなかった。
「美しい物を愛でる心のゆとりも必要だよ。ゆとりの無い心は自分の過ちを見過ごしやすい。」
「……。」
「些細なミスも積み重なれば重大な事故に繋がる。」
天城は思いの外真剣な眼差しで桜を見つめ、世良に語る。
「ジュノが真面目で職務に熱心なのは良い事だが、もう少し肩の力を抜きたまえ。」
「…はい。」
ゆとりの無さを諭しながら、身体の心配をしているのだ…と世良は思い、確かにその通りだと素直にその言葉を受け入れた。
「……その熱心さをもう少し私の方へ向けられないものかね、ジュノ?」
「えっ?!」
「最近はベッドじゃあまり気が入っていないじゃないか。もっとこう積極的に……」
「わわっ!ダメですっ、こんな白昼に外で何て事言い出すんですかっ!」
「別にいいだろう?誰もいないのだから。」
良く言えばおおらか、悪く言えば羞恥心が欠如している…と言うか。たまにとても困ることがある。
「誰もいないからって…やっぱり恥ずかしいですよ。」
「ふうん…」
隣に座る天城が含んだようにイタズラな笑みを浮かべ、世良は嫌な予感がした。
「今日は何でも言うことを聞くんだったな。」
「あ…」
何でも…なんて言わなきゃよかった、と後悔してももう遅い。天城はぐっと世良の肩を抱き寄せて顔を近付けた。端正な甘い顔立ちが視界に広がり、ドキリと胸が高鳴る。
「せん、せ」
言葉に詰まる世良に再度目顔で笑いかけると、そのまま距離を詰める。世良も目を瞑った。
突然強風が吹き、桜の花を舞い散らした。
一瞬、二人の姿が桜の乱舞の中に消える。
「……。」
花嵐が終わると二人の距離は少し離れていた。そして何故か天城は不機嫌な顔だった。
一方世良の方はきょとんとした顔つきだ。よく見ると唇に桜の花びらが張り付いている。
「…なんて無粋な花びらだ。」
二人のキスは桜の小さな花弁によって阻止されてしまったのだ。
―――やっぱり子供みたいな人だ。
世良は思わず吹き出してしまった。それが天城の下降気味な機嫌にますます拍車を掛ける。
「ね、先生。外ではダメなんですよ。」
「……面白くない。」
むくれる天城の手をそっと取って、世良は帰ろうと促した。
そして耳元で囁く。
「部屋でならいいですから。…早く帰りましょう。」
おしまい
ハーレクイン天城、子供返りするの巻