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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
No.
2025/07/07 (Mon) 09:24:43

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No.111
2010/11/05 (Fri) 14:57:59

お待たせしました!600HitのキリリクSSです!
今回のSSはちょっと長くなりました。
リクのお題は『周りからはバレバレな相互片思い→馴れ初め話(医者になってから)』です。
リクして下さったTさま。拙いSSですが、ご笑納下さい。

多分…リクエストには沿えてる……かな;;
書いていて何だか楽しくなってきて、うっかり長編ですよ。

では以下からどうぞww

拍手[20回]


恋のはじまり



自分はそんなに肝は太くない、と田口は思う。
小心者と言われるほどおどおどしているつもりは無いが、剛胆にはほど遠い。
面倒はなるべく避けたいし、諍い近付こうなんて更々思わない。
つまりは極めて平均的な度量の、平凡な人間だと自己判断している。
だから…
自分の気持ちに気付いた時、逃げるしか出来なかった。なるべくアイツに会わないよう、近くを通っても気付かれないよう注意を払って。
速水の視界に入らないよう、速水を自分の視界に入れないよう…まるで森の中で肉食獣から逃げ回る小動物のように、静かにそっと病院内を逃げ回っていた。

不惑も近付いた頃になってこんな気持ちに気付くなんて思いも寄らない展開だった。
恋心…なんてとっくの昔、学生時代に置き忘れて来たとばかり思っていたのに。人生何がおこるか分からないものだ。
学生の時から悪態を吐きながらも気の合う友人として付き合って来た。医師になってからもそれは変わらず、しかし速水の輝かしい活躍に田口は憧憬の念を密かに抱いていた。
憧憬だけならよかったのに、それ以上の気持ちに膨らんでしまったのは何時からだろう。

そんな邪な気持ちは箱にでもしまってフタをして針金で括ってしまいたいのに、そいつは隙間をついて顔を出してくる。
―――速水を見かけると心がざわつく。アイツしか見えなくなるなんて…重傷だ。
だから…田口は逃げ回るしか出来なかった。


最近やたらと気になる人物がいる。それは速水にとっては昔なじみの男なのだが、そいつ…田口を見るとつい目で追ってしまう。
『行灯』やら『お地蔵様』とかのんびりとしたあだ名を付けられ、それでも策謀渦巻く大学病院の中でマイペースに漂い、自分の居場所を確保している。

田口に対し苦手意識はあった。
しかしそれを上回る心地よさも感じていたのは昔からだった。
一緒にいても自然体でいられる安堵感。胸襟を開いて話せる信頼も備えている。
そんな友人を『友人以上』の目で見ていると自覚したのは最近のことだ。

急患が手当の甲斐なく亡くなった。全力は尽くしたが、やはり思いはやりきれない。
そんな時、たまたま田口と遭遇して彼の根城へ転がり込んだ。田口はコーヒーを差し出し、何も言わずに側にいてくれた。
労りの言葉も慰めの言葉も無く、ただ黙って側に座っていた。
その心地よさは、今までの誰からも与えられなかった安らぎと満足があって…
―――ああ、俺にはこいつが必要なんだ。
と気付いてしまった。
それは渇望に近い激しい感情。安堵感と共に感じた恋情を、速水は素直に受け止めた。

以来、速水は院内で田口の姿を求めてしまう。視界に入れば目で追って、しかし声を掛けるのは躊躇ってしまう。
この歳になってからのこの想いを何と告げていいのか、戸惑いを感じていた。
そして自分でも驚いた事にこの恋を、そして田口を失うのは怖い、と感じてしまう。
ここまで歳を重ねても、まだ怖い事があったなんて……
それだけ田口への気持ちが真剣だと言うことに、速水本人が焦り動揺していた。


「はぁ……」
田口は机で頬杖を突きながら、つい大きく嘆息してしまった。すると藤原の忍び笑いが聞こえる。
「あらあら、悩み事ですか?愚痴外来の先生の愚痴は誰に聞いてもらえばいいのかしら?」
「やだなぁ、そんなんじゃないですよ。」
「でも最近、溜め息が増えてますよ?」
何となく自覚はあるので田口は逆らえない。黙ってしまったのを良いことに、藤原は畳み掛ける。
「まるで恋する乙女みたいだこと…。このところ先生の憂い顔にちょっとときめいてる子もいるとか、いないとか。」
「ちょっ!藤原さん、笑えない冗談は止してください!!」
田口は思わず叫んで、『恋する乙女』の部分に鳥肌が立って腕をさすった。その様子を見て、藤原の笑いがいっそう高まった。
「でも先生の挙動不審はウワサになり始めてますよ?早く悩みを解消しないと本当に『田口先生は恋煩い真っ最中』の看板を背負って歩くことになるわ。」
と心なしか楽しそうに言われた。
すべてお見通しのような晴れやかな藤原の笑顔に、田口は為すすべもなかった。

恋煩い……
断じて違う!とは言えない自覚症状があるので頭が痛い。
最近はすっかり診察室に引きこもって、残業も程々に帰宅するようにしている。
長い勤務時間は危険だ。宿直は仕方ないが、うっかり泊まろうものなら深夜に速水が訪ねて来る可能性が高い。しかし最近は忙しいのかご無沙汰なのが有り難かった。
院内を歩く度に速水の視線を感じるような被害妄想に遭うこともある。速水が自分を視線で追うなんてことはあり得ないのに。
それが深夜、辺境の個室で二人きりになんてなった日には……。
間違ってはいけない事を間違いそうで、怖かった。


その頃、ジェネラルのお膝元ICUでも速水の奇行が話題になっていた。
「部長、おかしいよね?」
「この前なんて一階ロビーで突進したかと思ったら急停止して、盛大に舌打ちしてたらしいし…。」
「何だか辺りを眼光鋭く見回しては溜め息ついたりしてるって話も聞いたわよ。」
看護師たちのウワサ話は絶えない。
「誰かを追いかけてるっぽくない?」
「え~っ!じゃあ、もしかして……」
「医者でも温泉でもダメな…アレ?」
一拍置いて、顔を見合わせた彼女たちの間から嬌声が上がったのを佐藤は軽い目眩を感じながら聞いていた。

その妄想的なウワサが真実であることを佐藤が知ったのは偶然だった。
二人で院内を歩いていると、前方で二人の人物が立ち話をしていた。白衣の医師と看護師。ここは病院なのだから、当たり前の光景だ。
そこで唐突に速水が立ち止まり、佐藤は不思議に思い上司の顔を覗けば、その二人の姿を凝視している。
『こ…怖いっ!』
まさに肉食獣が獲物を狙う眼光だ。どちらをどんな理由で睨んでるんだろう。気になるが恐ろしくて聞けない。
妙な電波でも出ていたのだろうか。くだんの二人は早々に解散していった。
速水は片割れ…医師の姿をじっと熱い視線で追っている。
その医師は佐藤の視力に異常がなければ、不定愁訴外来の田口先生だ。
「…ぶ‥ちょう?」
速水に佐藤の呼びかけは聞こえていなかったようで、田口の姿が廊下の角を曲がって見えなくなるまで追っていた。
そして小さく一つ溜め息を落とした。
その姿はまるで…
佐藤は内心で必死に否定する。そんなことはあり得ない。自分の勘違いを切に願うが、速水の見たこともないような切ない表情がすべてを物語っていた。

逃げる田口に追う速水。互いに気持ちは同じ方向なのにまったくかみ合わない二人。
彼らの悪目立ちする奇行は、本人たちの預かり知らぬところで密やかに話題になっていた。
しかしこういう場合は知名度が物を言い、ウワサの先行率は速水に軍配が上がる。おかげで田口の極度の引きこもりの事はほとんど目立っていなかった。



「速水部長は院内の誰かに恋煩いらしいですよ?」
兵藤のウワサ話の信憑性が甚だしく欠けるのは周知のことだ。だから田口も笑えるウワサの一種と聞き流していた。
ところが藤原までもが
「速水先生の意中の人探しが、水面下でスゴイことになってるみたいですねぇ。」
などと言っている。
―――速水が…あの傲岸不遜の速水が恋煩いだって?!
「……信じられない。」
自分のことは棚に上げて、田口はカルテをめくる手を止め思わず呟いてしまった。反応に気を良くしたのか、藤原は更に情報をもたらす。
「最近はその相手と院内で行き遭わないらしくてご機嫌斜めでICUは大変らしいとか…」
「ったく、アイツも大人げないな。だから三歳児だとか言われるんだ。」
藤原は思いきり含めて言ったのに、本人はまったく気付かないのだから匙を投げたくなる。きっと投げたら匙は見えなくなるほど遠くに飛んだだろう。

田口本人は至って真っ当に答えたのだが、心中はあまり穏やかではない。
速水が焦がれるほど惹かれている相手とはどんな人なのか?どんな様子で追い求めているのか?
アイツのそんな姿を見れば、自分の不毛な恋にも諦めがつくかもしれない。
そんな健気な思いもあったが…実は半分は好奇心だ。
恋煩いなんて似合わない速水を物陰から覗き見てみたいという野次馬根性。
今まで速水から逃げたい一心だったのに、好奇心は時として危険を忘れさせ、人を立ち止まらせてしまうものだ。


「部長、失礼します。」
部長室の扉をあける佐藤の面持ちは若干悲壮感が漂っていた。
「ん、何だ?」
速水はため込んだ書類と格闘中のため、顔すら上げず返事をした。
「…今日はお願いがあって参りました。」
「何だよ、ずいぶんと他人行儀な言い方だな?」
「や、元々他人ですから…じゃなくて。お願いと言うより苦情です。」
「はん?」
ここに来て速水はようやく佐藤の顔を見た。
「苦情…だと?」
「はい、オレンジスタッフだけじゃありません。院内各所から『お宅の部長をどうにかしてくれ!』と嘆願やら苦情やらが僕の元に来ています。」
「どういうことだ?俺は何もしてないぞ?」
佐藤は床にのめりそうになった。本人は無自覚なのだろうが、あまりにも酷い。そして萎える気力を振り絞って説明する。
「あのですね、皆さんの言い分は『お宅の部長が不機嫌な顔でガンを飛ばしながら院内を歩くのは迷惑行為だ。病院の評判にも関わるからどうにかしてくれ。』と言うものです。」
「……。」
「ガンを飛ばすと言うのは別として、辺りを見回しては落胆して不機嫌なのは確かでしょうが。」
「……。」
速水はだんまりだが、ちょっと視線を逸らしたのは自覚している証拠と佐藤は受け取った。そこで意を決して爆弾を投げ込む。これを言わなければ、この状況は打開されないのだ。まさに『虎穴に入らずんば虎児を得ず』だ。

「……田口先生に出会わないのは、そんなにガッカリですか?」

「!!」
速水の顔つきが激変した。狼狽しつつも佐藤に対しきつい視線を投げつける。しかし佐藤もここまで来て引くわけにはいかない。ただでさえ赤字で不評のオレンジの評判を貶めたくない。自分たちの職務と精神衛生が掛かっているのだ。
「…どういうことだ、佐藤ちゃん?」
「どうもこうも無いでしょうが。僕は部長の意中の人が田口先生だってうっかり分かっちゃったんですから。」
「……。」
「別に人の恋路を邪魔する気は毛頭ありません。逆にこの迷惑な状況を打開出来るなら、早いところ田口先生とくっついちゃって下さい。」
「佐藤ちゃん?」
佐藤の突飛な進言に速水はきょとんとして、目をしばたかせている。その表情は佐藤を苛立たせ、キレさせるには充分だった。

「第一何です?ジェネラルとも異名をとる人物が恋煩いのウワサをたてられるなんて情けないじゃないですか。大の男が思春期の中学生じゃあるまいし、声も掛けられずに遠くから見てるだけなんて…。挙げ句の果てに逃げられっぱなしなんて情けないにも程があります!」

佐藤が珍しくまくし立てて言い切ったのを、速水はぽかんと聞いていた。
(最後の一言は偶然にも事実を言い当てていた)
しかしきちんと内容は把握していたようで、聞き捨てならない科白が混ざっていたのは理解していたようだ。
「…なるほど。要は俺がヘタレだと言いたいんだな、佐藤ちゃんは?」
速水の言葉に怒気が混じり、佐藤は虎の尾を思い切り踏んづけたと悟った。
出てしまった言葉は取り返しがつかない。佐藤は血の気が引いて青くなったが、ここで謝って逃げ出せば元の木阿弥。自分がヘタレないよう腹に力を入れて踏ん張った。

「……っ …っはっはっはっ!!」
しばらくの沈黙の後、突然速水が大声で笑いだしたので、佐藤は腰を抜かしそうになった。
「いやぁ、言うなぁ佐藤ちゃんも。なかなか良い啖呵だったぞ。俺が女なら惚れ直しそうだ。」
「じょ、冗談じゃありません!部長みたいな女性はお断りですって!」
佐藤は震え上がって首をブンブン振った。
速水はと言えば、妙にさっぱりとした顔になってご機嫌メーターが上昇したようだ。
「…そうだよな。手をこまねいているのは俺らしくないな。少しでも勝算を高くしてからなんて思っていたが、やっぱり計算ずくしは性に合わん。」
そう言うと書類をあっさりと放棄して部屋のドアに手を掛けた。
「あ、佐藤ちゃん。」
「…何でしょう?」
「玉砕したら、焚きつけた責任とって骨くらい拾えよ?」
「分かりました。やけ酒でも宿直一週間でも付き合いますから…」
溜め息混じりに佐藤が答えると、速水はニヤリと笑って出て行ってしまった。

部長室に一人残された佐藤は、田口に向かって心の中で呟く。
『オレンジの平和、ひいては病院の平和のために…田口先生、どうかよろしくお願いします。』
と本気で不定愁訴外来の方角へ柏手を打って祈りを捧げた。


田口は医局に行こうと部屋を出た。
気に入っている部屋ではあるが、病院の離れ小島は何かと不便だ。外階段を通りもう一度、建物の中に入ると自分の診察室とは違う雑多な空気が漂う。
そこにまた異質な空気が流れ込んできた。他を圧倒するようなこの雰囲気…前から歩いて来るのは速水だ。
周囲を見回しながら、やはり誰かを捜しているようだった。
『ウワサは本当だったんだ。』
いつもの慎重な行動は好奇心にかき消されて、速水の視界から逃げ出す事を迂闊にも忘れていた。
すると……

速水の目が田口を見つけた。田口も無防備に速水を見てしまった。
『しまった!!』
『…見つけた。』
お互いにしっかりと視線が絡み合った。

速水が、一瞬だが嬉しそうに笑ったのが田口は信じられなかった。焦がれた人が自分を見て…本当に綺麗に笑ったのが信じられない。
と思ったのも束の間、綺麗な笑みは瞬時に獰猛な捕食者の顔に変化し、田口が危険を察知した時にはすでに遅かった。
速水は大股でズカズカと歩いて来て、精神的に腰を抜かしている田口との距離をあっと言う間に詰めてしまった。
「よう、行灯。久しぶりだな?」
「あ、ああ…そ、そ、そうだな。」
「なに緊張してんだよ?暇ならちょっと話そうぜ?」
速水は上機嫌な様子で田口の肩を叩いて、外階段へと押し戻してしまった。



その日、不定愁訴外来で田口と速水が何を話したのかは二人だけの秘密。
しかし翌日から速水の機嫌が目に見えて急上昇して、彼を取り巻く人々は心から安堵した。迷惑だった奇行も収まり各所からの嘆願苦情も無くなって、佐藤も安心すると共に心で田口に向かって密かに頭を下げて感謝していた。

そして田口の方は…
『どうしよう…』
今までとは別の意味で頭を抱えていた。
『まさか速水の想い人が自分だったなんて…。どうしよう…嬉しすぎる。』
それだけじゃただの惚気になってしまう。それ以上に恥ずかしいし、同性との職場恋愛だし問題は山積みだ。
それでも…諦観を決め込んでいただけに、喜びは大きかった。
「先生、コーヒーどうぞ。」
「あ、ああ、すみません。ありがとうございます。」
カップを差し出した藤原は、さりげなく田口の表情を覗きニッコリと笑った。
「憂いは晴れたみたいね、先生?」
「えっ?!」
田口は必要以上に狼狽した。この人は一体、何をどこまで把握しているんだろう?下手な答えは墓穴を掘る事になるので慎重に答えを探すが、田口よりも藤原の方が早かった。
「そう言えば、速水先生のご機嫌も直ったみたいでこれでオレンジも安泰ね。」
「そう…ですか。いや、よかったですねぇ。」
田口の笑顔は複雑かつ白々しい。藤原はそんな上司の顔をじっと見て

「不定愁訴外来はね、先生が幸せならそれで良いのよ。」

と会心の笑顔を向けた。それに対して田口は少しだけ唖然として…苦笑することしか出来なかった。
 


密室と思われる愚痴外来で何が行われたのかは、皆さまの脳内補完で…(汗)
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