忍者ブログ
AdminWriteComment
愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
No.
2025/07/07 (Mon) 00:56:59

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

No.148
2010/12/24 (Fri) 00:05:00

お待たせしましたw……って待たれてたのか?
クリスマス用SSの投下です。
ちょっと長めなので記事を2つに分けます。

パラレルなので以下の設定をよく読んで下さいね!読んでOKだった方はGOして下さい。

《設定》
行灯~アンティークな喫茶店の不思議店主。属性はツンデレ。
将軍~とある商社のサラリーマン。属性はデレデレ(?)。
年齢設定は…たぶん不惑直前くらい。おっさんには変わりない。
将軍が若干ヘタレ入ってます。

拍手[8回]



貴方のために珈琲を… 前編 (将軍行灯パラレル)


無機質なビルが乱立するオフィス街。そのビルの谷間に時代に置き去りにされたような古い店がある。
良く言えばアンティークな造り、悪く言うとボロ屋。看板すら出ていないその店が辛うじて喫茶店だと分かるのは、仄かなコーヒーの香りだけだ。
そんな店に同じ並びの商社で働く速水が気付いたのは、もう十年以上も前だ。

あれは春。良く晴れた暖かい日だった。
取引先からの帰り、速水は一人の男に出会った。その男はオフィス街には不似合いな古めかしい店の前で猫を構っていた。
速水はこの辺りで野良猫など見たことがなかったので、つい立ち止まって猫と男を見てしまった。
猫は速水を見ると慌てた様子もなく、しかしどこかへ行ってしまった。構っていた男は名残惜しそうに猫を目で追っていた。
「あ…済まなかった。あんたが世話してるのか?」
速水は思わず声を掛けてしまって少しだけ気まずかったが、相手は笑顔で首を振った。
柔らかい、今日の日差しのように温かい笑顔だ。
「いや、たまにウチの店に寄るんだ。決して餌付けとかはしないけど、気に入ってくれてるみたいだ。」
「…ウチの…店?」
速水はまさかと思いながら、古い時代がかった扉を見た。男は笑いながら
「そう、ここが俺の店…喫茶店だよ。店構えはこんなだが、コーヒーの味は保証する。」
と自信ありげだ。
きっと速水の視線に濃厚な疑いが混ざっていたのだろう。男は少しだけ気分を害したようで、眉間にシワを寄せて
「そんなに疑わしいなら飲んでみろよ。口に合わなかったら金は取らない。」
とまで言った。
「よし、そこまで言うなら飲もうじゃないか。」
そう言われては後には引けない。速水は男の後について店に足を踏み入れた。

以来十余年。速水は暇を見つけては通う結果になっている。

店主の名前は田口。実に不思議な男だった。
穏やかな笑顔で迎えられると安心する。その笑顔で人を和ませ、心の凝りが解される。しかしたまに言葉に端々に棘が見え隠れしているのだから油断ならない。
長年付き合っている速水も「コイツ、意外と食わせ者じゃないのか?」と思う時もある。

営業形態も不思議だ。
客は速水のほかに来てるのかどうか怪しいくらい、いつも空いている。
定休日は不定。店主の気が向かなければ、2日も3日も休業だ。それに速水は何度無駄足を踏まされたことか。
以前も唐突に4日間も休んだので病気でもしたのかと思い心配していたら、5日目には何事も無かったかのように営業していた。
田口曰く
「面白い本が手に入って、それが上下巻だったからつい読み耽ってしまった。」
との事。速水は呆れ果ててしまい言いたかった文句も言えず、そのまま床にのめり込みそうだった。
こんな調子でこの店は大丈夫なのか…と言う速水の心配をよそに、未だのほほんとビルの谷間で営業しているのだから不思議以外の何者でもなかった。

いつしか速水はこの店にのめり込んでいった。そしてコーヒーだけでなく、店主の田口にも惹かれていた。
多少の不思議はあるが、それ以外は何の変哲もない普通の男だ。顔立ちだって悪くない程度に至って普通。
それでも…会えば満ち足りる。心が浮き立つ。
これを『恋』と言わずして何と言うのか。


「なぁ、ちょっと聞いてくれないか?」
「何だよ、改まって。気味悪いな。」
速水はカウンターの指定席に座り、田口はカウンター内でサイフォンの手入れをしている。
今年最後の月に入って、街中はクリスマスのお祭りムードで一杯だが、この店内はいたって静かだ。卓上の小さなツリーだけというのがこの店らしい。
速水は簡潔に一言だけ田口に告げた。

「お前が好きだ。」

その言葉は田口の脳内に達するまでにタイムラグがあったらしい。
動いていた手がようやく止まって、困惑の表情で田口が顔を上げた。
「…まぁ、俺も長年の客としても友人としてもお前の事は好いているが。」
「俺はそれ以上の意味で好きだと言っている。平たく言えば惚れてるんだ。」
「またずいぶんと平たいな。」
「…俺は本気だ。」
茶化した答えに速水が苛ついて顔が幾分険しくなり、田口は更に困ってしまった。
「今すぐ返事をしろなんて言わない。…そうだな。来週はちょうどクリスマスだから、25日の晩にでも返事が欲しいな。」
「おい、勝手に決めるな!25日は毎年ウチは休みなの知ってるだろ?!」

この店は毎年12月24、25日の二日間は必ず休みだ。年間通して唯一決まった定休日なのだ。
不思議だったので理由を聞いたらただ単に『クリスマスは街中うるさいし、浮かれた客が入って来るのが面倒だから』と言う、何とも客商売にあるまじき答えだった。

「知ってるとも。だが夜にちょっとくらい時間は作れるだろ?俺もこれから忙しくなるから、あんまり来られないんだ。」
「……。」
「だから…考えて欲しい。イエスでもノーでも答えが欲しいんだ。」
「…二日間とも用事があって他出してるんだけど。」
速水の脳裏に失恋の二文字がよぎる。
クリスマスの時期に用事なんて、田口には大事な人がいるのかもしれない。
この男のプライベートは謎だ。突っ込んだ話をするとのらりくらりとかわされて、いつも笑顔で終止符を打たれてしまう。
速水はそんな悲観的な思いはおくびにも出さずに
「24、25がいないなんてサンタクロースみたいな奴だな。」
と冗談交じりに言ってやった。田口もそれには笑いながら
「俺みたいなズボラがサンタクロースなんて出来ると思うか?」
と返された。

「でも…ほんの5分、10分でいいんだ。」
ダメでも良いからこの気持ちに区切りを付けておきたかった。田口が答えを躊躇しているとカウンター上の速水の携帯が鳴った。どうやら仕事関係のようだ。
「じゃあ俺、帰るわ。…あ、25日は大通りのデカいツリーの下で待ってるから。」
と言い残して、慌ただしく店を出て行った。

扉が閉じてしばらくすると、田口は大きな溜め息をついた。
「……参ったな。」
ちょっと考えると田口はカウンターから出てきて、扉の外に『クローズ』の札をかけてしまった。本当に商売っ気のない店主だ。
中に戻ると今度は自分の為だけにコーヒーを入れ始める。
考え事をするには極上のコーヒーが一番だ。

温かいマグカップを傾けながら、田口は考えた。
速水に言った、客と友人としては好ましく思っていると言うのは嘘ではない。皮肉屋で強引な男ではあるが、さっぱりとして潔い男でもある。そして変なところで強情で子供っぽい面があるのも面白い。
外見の秀麗さも相まって魅力的な人間であることは間違いない。
昼間たまに外に出ると、職場が近所なこともあって部下らしき人達と一緒のところを見かけることもあった。そういう姿は店でくつろいでいる時とは違って威風堂々としていて、まるで戦場に赴く将軍のような風格だった。
とにかく速水と言う男は見ていても話していても、興味の尽きない人間なのだ。

―――俺も…惹かれているのか?
はたと思考が止まりカップを置いた。
そういえば、速水についてこんなに深く考えたのは初めてだ。

―――それにしても男に告白される日が来るなんて思いもしなかったな。
そう思うとちょっとだけ苦笑いがこぼれた。
アイツはそういう性癖だったのか?いや…何年か前に付き合ってた女の愚痴を聞かされた事もあったから、少なくとも生粋で…というワケではなさそうだ。
もちろん田口にそっちの気は無い。ただ付き合いたいと思うほどの女にも男にも出会わなかっただけの話だ。
自分の世界には本とコーヒーとこの店があれば充分だったから。
この店を通して外界に触れるのも面白く、自分なりにここでの生活を楽しんでいた。

そこにこの告白だ。
速水を受け入れるということは、自分の世界に踏み込まれるということだ。
田口は慎重に考えていたが……
「…まぁ、まだ時間は多少あるし。俺も少し頭を冷やそう。」
そう言って、カップに二杯目のコーヒー注いで棚から読みかけの本を取り出した。




「……何でこの日に限ってこんなに寒いんだよ。」
速水は大きく華やかなツリーの下でぼやいていた。
今日は25日、田口との約束の日だった。
昼までは日も射していたのに、夕方近くからは急に寒波が厳しくなって、速水は厚手のコートでも着てくればよかったと後悔していた。
時計を見ると、今は午後七時。もちろん速水は田口が来るまで待つつもりでいた。

周りは待ち合わせの人達で一杯だ。友達、恋人、家族…みんな様々だがその笑顔はクリスマスにふさわしい幸せに満ちている。
田口が来てくれればいいのに…と切に思う。
もし来てくれて待ち望んだ答えがノーだったとしても、それはそれで仕方ないことだ。誰も男同士なんてリスクは背負いたくないのが普通だろう。速水だって男に恋するなんて思っても見なかった。
でも速水にはどうしても答えを聞いておきたい理由があった。
これは自分のわがままなのは承知している。田口にとってはいい迷惑なだけだろう。
それでも田口の答えを聞きたかった。

午後九時を回った。人出はだいぶ減って喧噪も落ち着いたが、速水の待ち人はまだ来ない。
「まだ帰って来ないのかな?」
寒さは収まるどころかどんどん冷え込んで、速水は手を擦り合わせる。
「……ん?」
目の前を何か小さいものが落ちて行った。ふと天を仰ぐと白く細かい……
「雪?」
道理で冷えるわけだ、と速水は溜め息をつく。本当ならホワイトクリスマスで世の中はロマンチックな雰囲気に包まれるのだろうが、今の速水には忌々しいだけだ。
この寒さにしては薄着な上に傘だって無い。ここは野外だから雪を避ける場所も無い。
速水は仕方なくそのまま待ち続けた。


田口が自宅兼用の店に帰ったのは午前0時を回った頃だった。
「……。」
速水の事は気になっていた。でもどうしても抜けられない用事だったので仕方ない。
「……まさか‥な?」
外は車も立ち往生するほどの大雪だ。こんな中、あの野外で待っていられるはずがない。待ってたら馬鹿だ。
でも……
「ああ、もうっ!」
田口は完全防備で店を出た。雪降る街は耳が痛いくらいに静かだ。車も人通りもまったく途絶えている。

雪道に苦労してようやくたどり着いた約束の場所。
すでにツリーの撤去作業が始まっていて、周りを見ても作業員しかいない。きっと明日には正月飾りが出来上がっているだろう。
やはりこの悪天候だから早めに帰ったのだろうと、田口は胸をなで下ろした。今日は用事があると言ってあったからきっとそうしたに違いない。
―――明日は営業するか。
と田口は思う。多分…いや、絶対に速水は来るに違いないのだから。
きっと文句を言って、俺の答えをせがむのだろう。
そう思うと田口の顔に自然と笑みが浮かんだ。

しかし、田口の勘は外れた。
26日に速水は来なかった。翌日も、その翌日もずっとだ。大晦日まで田口は珍しく店を開けていた。
それでも…速水が姿を見せることは無かった。


つづく
 

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[154]  [155]  [153]  [152]  [149]  [148]  [151]  [150]  [147]  [146]  [145
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
みさき
性別:
女性
自己紹介:
首都圏に棲む主腐…もとい主婦。家庭内における肩身の狭い『隠れ同人』。
カウンター
NEXTキリ番:45678
キリ番、受け付けます!
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
忍者ブログ [PR]