愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
No.400
2014/12/24 (Wed) 18:07:23
ご無沙汰してしまっております。
本日の更新は10月のスパークで無配した桜宮サーガのパラレルです。
しょうどんは小学生に、高階渡海は男夫婦(笑)状態となっております。
以上の設定に抵抗の無い方は先へお進み下さい。
それでは皆様、すてきなクリスマスをお過ごし下さい!
メリー・クリスマス!
本日の更新は10月のスパークで無配した桜宮サーガのパラレルです。
しょうどんは小学生に、高階渡海は男夫婦(笑)状態となっております。
以上の設定に抵抗の無い方は先へお進み下さい。
それでは皆様、すてきなクリスマスをお過ごし下さい!
メリー・クリスマス!
ここは桜宮商店街 (桜宮サーガパラレル)
「こーへー!行こうぜ!」
「年下のクセに呼び捨てにするな!」
桜宮町の朝は賑やかだ。
特に一丁目は商店街で住宅兼店舗が多く、登校する子供たちの姿が多く目に付く。昨今シャッター商店街が増える中、ここは駅前と言う最高の立地で活気も歴史あって地元民に愛されていた。
弾けるほどの元気で駆けて行くのは速水晃一、小学二年生。その後をマイペースに付いて行くのは田口公平で二つ年上の四年生だ。二人はお隣同士の幼なじみで、親も仲が良かったので生まれた時から一緒に育ったようなものだった。
「こーいち!よそ見して走るなよ!」
後ろから公平が注意した途端、晃一が大人とぶつかった。
「って!…あ、佐伯のおじさん!」
晃一の前に立ちはだかったのはこの商店街の自治会長を勤める古書店の佐伯だった。
「こら、お前はいつまでたっても落ち着かんな」
「お、おはよーございます!」
親の躾は厳しいらしく、いくらヤンチャでも挨拶はしっかりとする。
「ん、おはよう。…他に言うことがあるだろう」
佐伯が促すと晃一はバツが悪そうに小さくなって「ごめんなさい」とぶつかった謝罪をする。
「よろしい」
佐伯がひとつ頷いたとことで公平が駆け寄って来た。
「佐伯のおじさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。しっかり勉強してきなさい」
それだけ言うと商店街の中へと去って行った。
あの人は元は偉い先生だったと噂に聞いたことがあるので、子供ながらにも自然と襟を正して丁寧に接してしまうのだった。
ようやく二人ならんで集団登校の集合場所に付き、さっそく十数人で歩き始める。学校までは歩いて十分ほどだ。
晃一は二年生にしてはかなり大柄な方で、四年生の中でも平均的な大きさの公平と並んでもそんなに小さくは見えないのだ。なので公平と同級生に見間違われる事が多く、それが晃一の態度の大きさに繋がっている。いくら公平が呼び捨てにするな、と言ってもすっかり図に乗って悪のりする。最近では公平も一応嫌がりはするが、半分諦めた。
しかし晃一は嬉しいのだ。いつも一緒の…物心付いた頃からずっと隣にいる公平と同い年に見られるのが嬉しくて溜まらなくて。もっと近付きたくて、わざと呼び捨てにしているのだ。
たかが二歳、されど二歳。乗り越えられない歳の差が子供ながらにもどかしいと思う晃一だった。
*******
小学生の集団登校が終わって通勤通学の人の波も落ち着いた頃、高階は店のシャッターを上げ始める。開店にはまだ時間があるがいつもの習慣だ。商店街の中でも老舗のお茶屋だが、今は親から後を託されて三十半ばで一人で店を営んでいる。ご近所のお年寄りからは若旦那扱いだ。
朝食を済ませ新聞に目を通していると階段の音がして、住居である二階から男が一人降りてきた。高階とはそう歳の変わらない感じだが、寝ぼけ眼にぼさぼさの髪…と、とても老舗茶屋にはそぐわない男だった。
「おや、こんな時間に珍しい」
高階があくびをかみ殺す男を見上げた。
「なんだか目が覚めちまった」
と言いながらも今度は盛大なあくびをした。
「朝ご飯はどうしますか?」
「んー、味噌汁だけでいいや」
どうやらここの店に住んでいるようである。
謎の男は渡海征司郎と言う。どうやら高階とは旧知の仲らしいが、何年か前にふらりとやって来てそのまま高階の店兼自宅に住み着いてしまい、高階も追い出す様子はなかった。そしてその事実を商店街の人々も自然と受け入れて、すっかり顔なじみとなっている。口は悪いし身なりもいい加減だが、何故か子供に人気がある。本人は迷惑そうにしているが何だかんだ言いながらも可愛がっているようだ。
高階は豆腐とわかめの味噌汁を大きめの汁椀によそい、ちゃぶ台前にぼーっと座る渡海に手渡す。
「原稿は終わったんですか?」
「まぁな」
「締切り二度も延ばしてるんですから当たり前ですよね」
「…くだらねぇこと言うな」
渡海が嫌な顔をしながら味噌汁をすすった。どうやら渡海は文筆を生業としているらしい。
軽すぎる朝食を終えると食後の一服だ。それには高階も付き合うらしく、避けてあった灰皿をちゃぶ台の真ん中に置いた。
「ったく、ここは笑っちまうくらい平和だぜ。朝昼晩と規則正しいし、ガキ共の遊ぶ声はするは、近所の婆さん達が惣菜持って来るは…」
「…何年住んでも慣れませんか?」
「自堕落な暮らしが長かったからな」
渡海は紫煙を美味そうに吐き出してはほろ苦く笑った。この家の居候になる前はどんな暮らしをしていたのか、高階はあえて聞こうとは思わなかったが荒れた生活であっただろう事は想像がついた。
「私だってあなたと暮らす事になるなんて思いもしませんでしたよ」
と高階が溜め息混じりにこぼす。
「俺だってまさかこんな事になるなんて…な、権太」
渡海がニヤリと意味ありげに笑って高階が一番嫌がる名前を呼ぶと纏う雰囲気が少しだけ変わる。それを感じた高階は「…まったく、朝っぱらからタチが悪い」と顔をしかめて立ち上がり、ついでに手にした新聞で渡海の頭を叩いて台所へと消えた。そんな様子をクスクスと笑い、高階の背中を見送る渡海だった。
その日の晩飯に鰻重が供され、「明日も寝不足覚悟して下さい」と宣言されると渡海が吸い物を吹き出しそうになる。
「あなたが朝から煽るから悪いんです」
高階がしれっと言い、そして最上級の笑顔を繰り出して渡海をげんなりさせた。
*******
下校時間を過ぎると子供たちが一斉に商店街に現れる。それと同時に買い物客も増えて軽く賑わい始めた。
晃一と公平も学校が終わり帰宅途中だ。公平の家は商店街の中で喫茶店を開いていて、二階が住居になっていた。そのお隣の整形外科が晃一の家だ。晃一のところは元々一軒家で開業していたのだが、数年前に小さなビルに建て直して一階を病院、二階をテナントで貸し出して三階を住居としていた。
晃一が産まれた時は公平はまだ二歳だったが、しばらくすると隣に赤ちゃんがいるだけでお兄さんになった気分だった。一人っ子だったので本当に弟が出来たようで、嬉しいと言うか物珍しくて母親にせがんで毎日のように赤ちゃんの顔を見に行っていたのを何となく覚えている。
それが…だんだん言葉を覚え幼稚園に入り、そして小学校に入学する頃にはすっかりヤンチャ坊主になって公平はいつも振り回されていた。
しかし何故かそれは嫌ではなかった。わがままに付き合って、時には嫌な思いもしたけれどそれだって一晩たてば何でもなくなってしまうくらいの事で。大概は「仕方ないなぁ」で済んでしまった。可愛い弟みたいな…何というか一番近しくて大事な友人だった。
「晃一、後でウチに来る?」
公平が何となく誘ったが晃一は友達との約束があるからと言って断った。
「あ、でも宿題やりたい」
「じゃあ後でおいでよ」
夕方から夕食までの数時間、どちらかの家で一緒に宿題をするのは頻繁にあった。
公平としては弟の面倒を見ているようで楽しくて、晃一は大好きな公平を独り占め出来る時間だ。
ふと見ると公平の指先に絆創膏が貼ってあり、それが剥がれかけている。
「どうした、それ?」
「ん?本めくってたら紙で切っちゃったんだ」
傷口はまだ塞がらないが、すでに血は止まっていた。
「また血みて泣いたんだろ」
「こんなちっちゃい傷で泣かないよ!」
公平はどうも血が苦手で、以前転んで足を大きく擦りむいてしまった時に派手に出血して、晃一の前で泣いてしまったのだ。それ以来すっかりからかわれている。
実を言えばその時は晃一もかなり怖かったのだ。でも泣いてしまった公平を放ってなんておけなくて、自分も泣きたいのを我慢して大人を呼びに行ったなんて格好悪くてとても言えない。子供ながらに虚勢を張っていた事は未だ公平にはバレていないらしい。
「なぁ、ちょっと見せて」
公平の返事を待たずに手を取って、晃一は傷口をしげしげと眺めた。
紙で切れた傷は意外と深い。出血は無いけれどまだくっついていない傷口が痛々しい。
なんでこんな事をしたい衝動に駆られたのかは晃一にも解らない。ただ公平の傷だと思ったらとっさにやらずにはいられなかった。
晃一はそっと傷を負った指を口に含み、傷口を舌で舐めた。
「!!!」
公平は突然の事にびっくりして飛び上がりそうになり、慌てて手を引っ込めた。
「なな、何っ!!」
こんな事、誰にもされたことがない。驚きすぎて声にもならないし、よくわからないまま、顔も真っ赤になった。
公平の驚きに晃一も我に返って焦った。何、なんでと言われても説明のしようがない。
「だ、だ、だって!こんな傷、舐めときゃ治るって言うじゃないかっ!」
とっさにしては上出来の言い繕い方だったが、言った晃一も真っ赤になっていた。
「じゃ、じゃあなっ!」
晃一は火の吹き出そうな顔で殊更ぶっきらぼうに別れを言って商店街を駆け出したが、公平はいまだ放心状態で追うことは出来なかった。
何でこんなに顔が熱くなるのか、どうしてこんなに心臓がバクバクするのか。家に帰りたいのに手足が言うことを聞いてくれないなんて初めての経験だ。どうにもならずに駆け出した晃一の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
「公平くん?」
「わっ!」
突然の呼びかけに公平は再び飛び上がって振り向くと。
「た、高階さん!」
「どうしたんだい?道の真ん中でぼーっとしてると危ないよ」
ちょっと買い物に出た高階が固まっている公平を見て不思議そうに声をかけたのだ。同じ商店街に住んでいるし、公平の家の喫茶店にもよく顔を出すので当然顔見知りだ。
「な、何でもないです!」
「そうなの?」
大いに怪しい返事だ。高階が心配そうに顔をのぞき込み、真っ赤な顔を見て「熱でもあるのかな?」と額に手をやると公平はまた違う意味でドキドキして飛び退いた。
「?」
「だ、大丈夫だからっ!」
それだけ叫ぶとようやく自由になった手足をフル稼働させて家路を走り出した。
高階はぽかんと公平の後ろ姿を眺めるだけだった。
おしまい
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