これが終わると年末だな~って気がします。
さて、明日UP出来るか分からないので一日早いけど、クリスマスしょうどんを上げておきます。
去年が前後編の大作だったので、今年は小話です。本当に短い(苦笑)。
イベントを毎年って大変ですよね;;
恋人がサンタクロース
「ねぇ、せんせいのところにはサンタさんはこないの?」
小児病棟を訪れた田口は、まだ小さな少女の患者にそう聞かれた。
「そうだね。先生はもう大人だからサンタさんは来ないなぁ。」
と笑いながら答え頭を撫でてやった。
12月に入りクリスマスの飾りでいっぱいになると、普段とは違う浮き足だった感じになる。一年の中でも最大級のイベントなので、楽ではない治療や痛みを抱える子供達にとってはまさにお祭り騒ぎだ。
「サンタさんには何をお願いしたのかな?」
「パンダさんのぬいぐるみ!このまえテレビでみたパンダさんがかわいかったの!」
満面の笑みではしゃぐ姿はどこにでもいる子供だが、病を抱える身体は少し痩せていて痛ましい。田口は同情ではなく慈愛を込めて少女に言った。
「そうか。みんな頑張ってるから、きっと君のところにも可愛いパンダさんが来るね。」
「うん。サンタさんはいいこのところにくるってママがいってたから、アタシもいいこにしてるのよ!」
少女ははしゃぎながら廊下をパタパタと駆けて行き、その後ろ姿を田口は微笑ましく眺めていた。すると少女が立ち止まって振り返る。
「せんせいもいいこにしてたらサンタさん、くるかもしれないよ!」
そう叫ぶと手を振って病室へと入って行った。
「…可愛いなぁ。」
思わず呟いて、本当に笑ってしまう田口だった。
―――毎年クリスマスは……
そう考えて苦笑した。そう、いつも田口は宿直。家族持ちや恋人持ちの奴らと代わってやるのが恒例だった。まあ、田口にとっては都合が良かったので何ら問題もなかった。だって恋人はクリスマスだからといって休めるような事はなかったし、同じ院内にいたし…。
オレンジに君臨していた彼は、クリスマスの深夜に田口のいる愚痴外来に来てはコーヒーを飲んで甘い言葉をこぼし、キスをして帰って行ったものだった。
ケーキもプレゼントも無いクリスマスだけれど、それだけで充分だった。
しかし今年は一人きりだ。彼はもう…ここにはいない。
クリスマスまであと一週間となった頃、田口は再び小児病棟を訪れた。するとまたあの少女に出会った。
「せんせい、こんにちは!」
「やあ、こんにちは。だいぶ具合も良さそうだね?」
「だっていいこにしてるもん!にがいおくすりものんでるし、ちゅうしゃだってなかないもん!」
「お、えらいなぁ!」
自慢げな少女に田口はいつも通り笑顔で接する。すると少女がふと不思議そうな顔をした。
「ん? どうかしたの?」
「せんせい、いいことあったの?なんだかおかおがたのしそう。」
「え? そう…かな?」
田口が首を傾げると、少女は友達に呼ばれて「じゃあね」と手を振って行ってしまった。
―――子供でも女の勘は侮れないな。
田口は小さく嘆息して、顔の筋肉を引き締めるよう努力した。
彼から電話があったのは昨夜。
『クリスマスイブの夜には帰れるから』と唐突に連絡があって慌てて予定を組み直したのがさっきだ。今年のイブは宿直を代わってくれと言い出したものだから、医局ではちょっとした騒ぎになったくらいだ。根掘り葉掘り聞かれる前にさっさと逃げ出したが、明日の朝イチに兵藤が押し掛けてくるのは分かりきっている。適当な言い訳を考えておこう、なんて思いながらもやはり心は躍っている。
―――良い子にしていればサンタがやって来る…か。
俺だって頑張ったもんなぁ、なんて少しだけ自画自賛してみたりして…顔は引き締めてもやはり満更でもない気分だ。
田口にも今年はサンタクロースがやって来る。
男前で背の高い、でも傲岸不遜なサンタクロースが雪の街からやって来る。
プレゼントも何も無いけれど、せいぜい部屋を暖めて待っていてやろう。
ゆーみんの往年の名曲からです。背の高い、雪の街からやって来るサンタ…と言ったら速水しか思い浮かばなくなってしまったです^^ヾ