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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.358
2013/01/04 (Fri) 21:42:07

さて今年最初の更新はやはりしょうどんでw
将軍大いなる勘違いの巻、です~。
あの二人はラブいのもいいけど、学生のノリのまま大人になっても良いと思います。

拍手[11回]


疑惑の味覚


田口の料理の味が変わった。

今、目の前に出されているのは何の変哲もない野菜炒め。それこそカット野菜を買って炒めただけの料理とも言えないようなモノで、独身男の粗野な食事だ。
しかし……
今日の野菜炒めはいつものとは違う。見た目は同じなのに何となくコクと言うかうま味があるというか。とにかく美味かった。
―――あいつが料理本を買うとは思えないし。
そもそも本にはこんな雑な料理は載っていないだろう。速水は箸を進めながら首を傾げていた。

「どうだ、美味いか?」
わざわざ聞いて来るところを見るとやはり何か仕掛けがあるらしい。
「ああ、美味いが…何か変えたか?いつもと味が違う。」
田口はにんまりと笑って後ろ手に隠していた物を速水に突き出した。
「…マヨネーズ?」
「そう。これを少量入れて炒めるとコクが出て美味しいんだとさ。」
「へぇ…。本にでも書いてあったか?」
「いや。いつも行くスーパーで合った人が教えてくれたんだ。」
「ふうん。」
速水の眉がぴくりと動いた。
―――料理の裏技を知ってるとなると…女か?
田口は意外とモテる。主にお年寄りだが、若い子の間でも側にいると安心感があっていい感じと人気らしい、と小耳に挟んだことがある。
「今度また簡単なのを教えてくれるってさ。」
「……。」
田口が嬉々として話しているが、速水はちょっとだけ拗ねて黙々と食事を進めた。

別の日に行ったら今度はサラダにじゃこが散らされ、ドレッシング代わりに柚子ポン酢が添えてある。どうやらまた教わって来たらしい。
―――しゃくに障るが美味い。
速水は面白くないが、田口はそれなりに楽しいらしい。
「じゃこはご飯にかければすぐに食べ切れそうだし、ポン酢はしょうゆ代わりに使えば塩分カットになるって。」
機嫌の良い田口に対し、速水の中では完全に浮気疑惑が芽生えていた。本人にそのつもりは無くても、田口は天然の誑しだから相手がかなり入れ込んでいるのかもしれない。その気が無ければ独り者の男にこんなに親切にするはずがない。
「まさか家に来て料理してあげようなんて言われてないだろうな?」
速水がさりげなく釘を刺すと田口は笑いながら
「ああ、そうも言われたけどさすがに断った。」
と言った。
―――言われたのかよっ?!
速水はテーブルをひっくり返しそうになった。
「何かお礼でもした方がいいかなぁ?」
と暢気に呟く田口がひどく憎らしく見えて速水は切歯した。

その晩は田口が意識を飛ばすまで酷く攻め立ててしまい、翌朝の田口の機嫌は当然最悪。しばらく出入り・接触を禁じられて速水はがっくりと肩を落とした。


田口の勤務する不定愁訴外来は病院内の噂の最終到達地点。ある日そこに廊下トンビがまた一つの噂を落として行った。
『速水が恋人に浮気をされて落ち込んでいるらしい』
というものだった。田口はいろんな意味で首を傾げた。
まずは速水の噂にしては地味だと言う事。彼の噂は大概が華々しく、田口の所にたどり着く頃には話に尾ひれ背ひれに手足までもが付いて一人歩きしている状態だ。それがこんなに簡素で地味な噂だなんて、逆に信憑性が増してくる。
しかしここで第二の疑問。もしこの噂が本当だとしても自分に浮気の心当たりなんて皆無だ。
「あいつ…何を誤解してるんだ?」
まったく面倒くさい男だ、と田口は深く嘆息した。

先日の無体もそろそろ許してやろうかと、オレンジ二階の小児科に行ったついでに速水の根城に顔を出す。
「おい、変な噂が回って来たぞ。どうしたんだ?」
と声を掛ければ、椅子ごとくるりと振り向いた顔はガキ大将がむすっとしたようなふくれっ面だ。
田口は思わず吹き出してしまったが、それがまた速水の機嫌を損ねたらしい。
「あ~、悪い。しかし浮気疑惑はどこから膨れ上がった妄想だよ?」
「……妄想?」
速水の目がすっと細まり、猜疑心いっぱいの顔が田口に向いた。
「…じゃあスーパーの女は何なんだよ。」
「は? スーパーの…?」
「しらばっくれるな。料理のレシピなんか教わってホイホイ釣られやがって…その内女の家に呼ばれてお前が食われるに決まってるんだ!」
『スーパー』と『料理』のキーワードで田口はようやく思い当たった。
「おま、え……」
田口の顔が歪んだ。泣き出すのか、それとも指摘されたのが悔しいのか…とにかくその表情に速水は修羅場を覚悟した。
ところが…予想に反して田口が大爆笑した。もう腹を抱え涙目になって笑い転げている。
「おい、行灯。」
速水が怒りと戸惑いが半分ずつの何とも言えない声を絞り出したが、田口の笑いは止まらない。
「おい、笑い事じゃないだろっ!」
と苛立って叫ぶと「わ、わらい、ごとだよ」と息も絶え絶えに田口が答えた。

「俺、言ってなかったっけ?教えてくれたのは試食販売のおばちゃんだよ。」

「……え?」
速水のぽかんとした顔が空間に貼り付いた。
「その人、旦那さんがウチの患者だった人でさ。実は奥さんとも面識はあったからスーパーで合った時は驚いたよ。で、その後の様子とか聞いて話が弾んだんだ。すっかり元気になったって感謝されたよ。」
「そ、そう‥か」
「俺が出来合いの総菜や弁当ばっかり買うもんだから、逆に心配されちゃって簡単なレシピとか教えてくれたんだ。」
おかしいな、最初に話したと思ったけど…と田口はいまだ目尻の涙を拭いながら呟いている。

―――俺は…何やってたんだ。
速水は呆然としていた。散々一人で悩んで妄想して嫉妬して…更には乱暴に抱いた挙げ句遠ざけられて。
すべてが一人相撲だったなんて…恥ずかしいにもほどがある。
「じゃお前、妬いてたんだ。」
「…。」
「それであの有様でこの噂か?」
「……。」
速水は次々と図星を突かれ憮然とするが、その様子が田口には溜まらなくおかしく見えてまた笑い出しそうになる。


田口が去って、しばらくしてから部長室に立ち寄った佐藤が見たのは、机に突っ伏したままぴくりとも動かない屍のような速水の姿だった。

おしまい
 


人の話はよく聞きましょうと言う教訓。

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