本日の更新はついったーでリクをもらったSSです。『後ろから抱き付く行灯』と言うお題を頂戴しました。
先週のアサヒのひとりぽっち発言からの連想です。
あ、アサヒの連載とは全然関係ないですから。
ちょっと短めのSSで、スパーク原稿後のリハビリみたいですが続きからどうぞ。
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秋の気配
田口は久しぶりに北へと飛んだ。もちろん目的は速水に会うためだった。
ほとんどが電話とメールだけの遠距離恋愛。動きの取れない速水の元へ田口が行くのがほぼ定番になっていたが、それだって数ヶ月に一回くらいだ。最近は面倒な事柄を押しつけられる事も多くなり、なかなか会えるチャンスは巡って来なかった。
だからと言って諦めるほどの軽い付き合いではない。距離があっても信頼は揺るがない絆があると信じている。
「さすがにこっちは涼しいを通り越して寒いくらいだな。」
十月初旬ともなれば北国の秋は早い。田口がもう少し厚着をしてくれば良かったと言えば、速水は「お前は寒がり過ぎだ」と笑った。
速水は昔から寒くても厚着はしなかった。「こんなのは寒い内に入らない」と言い放って、もこもこに着膨れた田口はよく笑われたものだった。
しかし今日の速水は少しだけ寒そうに見えた。本人は何も言わないが、そう感じさせる何かがあった。
二人は公園の小高い丘に来ていた。秋晴れの青い空が非常に爽快だ。
「こんな日はフライト日和だな。」
「確かに、な。でもコールは無いに越したことはない。」
「そりゃそうだ。」
速水は柵に手を掛けて大空を見上げ、その姿を田口は一歩下がったところで見つめている。
その背中が…僅かにいつもより小さく見えた。
―――ああ、そうか。
田口は不意に思った。速水が寒そうに見えたのは身体がではなく、心が…だったのだと。
オレンジは速水が君臨した彼の城だった。彼の号令の下、皆が一丸となって事が進んだ。盤石な一枚岩の結束を誇る部下達を従えた絶対の領域だった。
しかし…ここは違う。速水はたった一人、異分子なのだ。速水の論理はここでは通じない。それが彼を苛立たせ、そして傷つけている。
あの背中…昔に見たことがあるな。
あの時、俺はどうしたっけ……
田口は遠い昔に思いを馳せた。
確か秋から冬ににかけての風が冷たくなっていた季節だ。
あれは二人がまだ学生だった頃……
田口は速水を校内で探していた。もちろん麻雀に誘うためだ。
「ったく、どこに行ったんだよ。」
目ぼしい所は探したがすべて空振りに終わり、最後にたどり着いたのは学校の裏手にある林だった。たまにこのあたりで一人で素振りをしているのを思い出したのだった。
速水はいた。一人で林の中をじっと見つめているようだ。その背中からは何ともいえない感情が立ち上っているようで、田口は声を掛けるのを躊躇った。
結局この時は何もせずに立ち去った覚えがある。
あの頃はまだ、恋でも愛でもないただの友情だけで結ばれていた。だから速水の心の機微など解らなかった。
でも今なら解る。あの時も、そして今も。
速水の気持ちも、どうすれば良いのかも理解しているつもりだ。
アイツは意外と寂しがり屋なんだ。トップに立つ分、虚勢を張るんだ、昔から。
だから……
「…速水。」
田口は速水に近付いて、そっとその背中を抱き締めた。
「あ、んどん?」
普段こんなことをされないので、速水は酷く戸惑った声を上げた。それに構わず田口は顔を背にくっつけて密着している。
「速水…大丈夫さ。お前なら大丈夫。自分を見失わなければ道は開けるから。お前の信念を貫けよ。」
「行灯…お前……」
「俺の知ってる速水晃一は…頑固でわがままだけど、いつでも本気だからな。」
「…誉められてるのか貶されてるのか分からないな。」
「うるさい。黙って聞いとけ。」
本当は田口もかなり恥ずかしいのだ。しかしこうするのが一番良いと思ってしまったのだ。そう思ったらつい行動していた。
「…三歳児なら抱き締めて慰めてやるのがちょうど良いだろ。」
と憎まれ口の言い訳をすると、反論されるかと思ったら速水が急に身体を反転させて、今度は田口がその腕の中に収まってしまった。
「はや、みっ!」
「……ありがと…な」
速水が小声で囁いた。その声音は低いがひどく安堵したような優しい声だった。
「ありがと…行灯。お前の言葉はいつも温かい。」
「……。」
万感の思いが込められた言葉に返す言葉は無い。触れ合う温もりだけで分かり合える。
秋風の通り過ぎる中、二人はしばらく黙って抱き合っていた。
う~ん…お題に沿えているかわからないけど。どうでしょうか?