いつの間にか100Hitしてました。
ありがとうございますww 弱小サイトですが、覗いて下さるお客様はいらっしゃるようです。
安心しました(笑)
自己満足と自給自足精神で始めたサイトですが、人様に見てもらって一言頂けると嬉しいものです。
これからもよろしくお願いいたします!
拍手もありがとうございます!!
さてさて。
本日の小話は50Hitのリクエスト作品です。お題は『速水田口の遠距離恋愛』。
お楽しみ頂けるかどうか…。初のリクなので、ハズしてないかちょっと心配;;
ご笑納頂ければ幸いです。
距離の問題
―――会えないのが辛いんです。
「じゃあ、やめろよ。」
―――お金がなくてなかなか会いに行けません。
「社会人なら金ためろ。」
―――仕事が忙しくて……
「喧嘩売ってんのか?」
―――遠いと不安です。
「………俺だって一緒だ。」
田口はカーラジオから流れる遠距離恋愛の相談コーナーにひとりツッコミを入れ、苛立ちながら自宅への帰路についていた。
速水と遠距離恋愛になってからもう1年近くになっていた。あれから会えたのは…たぶん片手で足りる程度だ。
世の若者達は遠距離恋愛に不満タラタラらしいが、いい歳の大人は仕事と割り切ってしまえば良くも悪くも諦めもつく。
もちろん内心穏やかではないが、恰好をつけて平静を装うのは大人だからこれも仕方ない。
歳とともに諦める事が増えていくは事実だ。
桜宮からは遙か遠い北の地で、やりたい放題と言われながらも速水の評価は高いことは間違いないだろう。
田口にとって速水は同期の医師としては尊敬に値し、そんな恋人はちょっと鼻が高く自慢でもある。(本人には決して言わないが)
医師としての腕も良い上に誰もが認める男前とくれば、無い腹も探りたくなってしまう。
―――遠い地で恋人が浮気をしないか心配なアナタ!浮気されないように、アナタも自分磨きをして次に会う時にしっかりと相手のハートを掴みましょう!
DJの女性はテンションも声音も高らかに言い放つ。
「浮気は無いと思うが…言い寄られてるだろうな。でもな、冴えない四十男は今更磨いたってどうにもならないんだ。」
言い終えたあと、自分の独り言が妙に空しい田口だった。
「……なんて事言っててさ。だんだん馬鹿らしくなって来たよ。」
『まぁ、大概の奴らは気合いと根性が足りないんだろ?』
田口は帰宅後にかかって来た速水からの電話で先ほどのラジオの内容を愚痴ると、速水はからりと笑う。
今日は珍しく時間通りに勤務が終わったらしく、ゆっくりっと話が出来そうだ。
『しかしな、自分磨きとはなるほどと思うな。』
「そうか?」
『そりゃ、恋人のために素敵になりたいってのは当然だろ。離れてりゃ尚更じゃないか?』
「女性の場合はな。残念ながら俺は男だ。」
『そりゃそうだ。今のは一般論だって。』
「さすが、モテる男は女心に詳しいな。」
女心の機微には決して敏感でない田口はただ単純に感心しただけなのに、速水は都合のいいように解釈する。
『なんだ、妬いてるのか?浮気はしてないぞ?俺はお前一筋だから心配すんな。』
「誰が妬くか。」
本当は一抹の不安はある。やっぱり距離が恨めしい。しかし…それは言っても詮無い事だ。
『…お前、自分磨きなんかすんなよ?』
「え?」
唐突に言われて田口は面食らった。
『お前がさ、物腰が洗練されてスタイリッシュになったら行灯なんて呼べなくなるから。』
「…そういう理由かよ。」
くだらなくて呆れてしまう理由だが、こんな会話が心地良い。どんなに馬鹿げた話題でも、遠く離れていても、言葉が軽やかに飛び交うのは心が弾むものだ。
田口は先ほどの恨みは撤回する。
距離はあっても心が通じていれば楽しいし、信じられる。速水は信じるに値する男だから。
「…なぁ、速水。」
『なんだ?』
「結局、遠距離恋愛って物理的とか金銭的な問題じゃないよな?」
『急になんだよ?』
「距離の感覚って人それぞれだろ?九州と北海道じゃ本当に遠いけど、人によっては、たかが一県跨いだだけでも果てしなく遠く感じる場合もあるだろうし。」
『まぁ…否定はしない。』
「結局、問題は心の距離ってヤツ?どれだけ相手を信頼出来るか、思いやれるか…みたいなさ。」
『……。』
「お前とは離れてるけどさ、こうやって話をしてると安心感がある。極北にいるって事を忘れそうになる。ってことは、やっぱり…」
『俺とお前の心の距離はゼロってことだな。』
速水のニヤリとした顔が目に浮かび、田口はすこし赤くなる。
「相変わらずキザだな。」
『馬鹿言うな。お前の方が男前な事言ったぞ?惚れなおしそうだ。』
「…やっぱりお前、馬鹿だ。」
『そうだな。行灯馬鹿だ。』
「……恥ずかしい奴。」
『あ~、そんな事言われちゃ、俺ってばカッコ悪りいな。』
「?」
『ちょっと外見てみろ。今夜は月がキレイだぞ?』
「はぁ?」
訳も分からず田口は電話を持ったまま窓を開く。確かに綺麗な月が天空に輝いている。
『はい、それでそのまま視線を下におろして…』
田口は言われたとおり視線を窓の下に落とす。
そこには……
「は、やみ……?」
『休み取れたからな。遠くて会えなくてストレスが溜まったぞ?』
田口の視線の先には電話を片手に、そしてもう一方の手を上げて笑っている速水がいた。
『心の距離がゼロなのもいいが、物理的な距離だってゼロの方がより良いだろ?』
見上げながらも律儀に電話で話す。
「……ホント、馬鹿だな。早くこっち来いよ!」
田口は喜びと羞恥で真っ赤になって電話を切った。
玄関向こうの通路で足音が止まった。
すべての距離がゼロになるまで、あともう少し…。
いかがでしたでしょうか?行灯先生は遠恋でも辛抱できる子だと思ってます。