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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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2025/07/07 (Mon) 03:15:36

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No.212
2011/05/13 (Fri) 23:59:56

久し振りに気合いを入れて書いたら、力みすぎて空回り…なんて事ありませんか?

今回更新の世良渡海が良い例ですww
取りあえず頑張ったので……よろしくです。(何が?)
そしてうっかり長いよ;;

あ、最初と最後が極ラプテイストなので、その辺もよろしくです(だから何が!?)
 

拍手[14回]




君に恋ひ渡る


世良は今中を従えて極北大の中を闊歩する。
これからの駆け引きの事も考えているが、世良の心にはもう一つまったく違う思いがあった。
今中はもちろん、誰にも語る事もない…語る必要もない思い。

―――渡海先生……

この極北大は渡海の母校だ。
まだまだ駆け出しの頃、短い期間ではあったが世良の師であり、そして恋人であった。
―――恋人…と自惚れていいのかな?
それについては甚だ疑問が残るが、世良が渡海に恋をしていたのは事実だった。
好きで好きで…その気持ちに迷いは無かった。
―――僕も若かったな。
世良は内心で苦笑していた。

速度の遅いエレベーターに二人で乗り込む。今中の様子をちらりと伺うと不安気な顔つきだ。何も分からずに連れ回されるのだから仕方ないと思う反面、若干の鈍さに苛立ちを感じることもある。
―――あの頃の僕もそんな風に思われてたのか?
あの頃…渡海と過ごしていた頃はまだまだひよっ子。卵から孵ったばかりの雛で右往左往してばかりだった。
そんな自分を渡海はからかいながらも指導してくれた。
エレベーターの中でじっと前を見つめながら、世良の脳裏にある日の事が蘇った。




ある暑い夏の日。
世良はたまたま渡海と二人きりで病院の職員用エレベーターに乗り合わせた。
「お前、若いんだから階段で行けよ。」
「じゃあ乗ってる渡海先生はもうお年寄りってことですか?」
「けっ…可愛げの無い奴だな。」
苦々しく笑う渡海は何気ない仕草で髪をかき上げた。一連の動作が美しいと思ってしまうのは、恋の欲目だろうか。
世良はいつも渡海の仕草に見惚れてしまい、大人の彼に溺れてしまうのだった。
そんな不埒な事を考えていると、突然…
ガタンッ!
「おっ?」
「えっ?!」
エレベーターが大きく揺れて停止した。一瞬真っ暗になった後、小さな非常灯が点いた。
「うわぁ……故障ですか?」
「ちっ、らしいな。」
薄暗がりに目が慣れてくると、渡海がひどい渋面なのが分かる。取りあえず世良は非常ボタンで管理室と連絡を取り救助を待つことにした。

「停電ではないみたいですね。非常灯が点いてるし、空調もなんとか…」
「みたいだな。ったく、ついてねぇなぁ。」
渡海はぼやきながら壁に寄りかかり大きく嘆息した。
「野郎二人で閉じこめだなんて最悪だ。」
「どうせならナースの可愛い子が良かった…とか?」
「お、解ってるな。」
渡海がニヤリと笑えば世良はむっとした。
男同士だが、一応恋人だと思っている世良が機嫌を損ねるような答えをするのが渡海には楽しいらしい。
「……それなら藤原さんと閉じこめられればよかったんだ。」
「俺は可愛いって言った。」
「可愛くはないけど、藤原さんだってナースです。」
「……今の発言は問題ありだな。」
世良のうっかりな失言に渡海はニヤニヤしながら世良をからかう。
しかしここで焦って反論すればもっといじられるのは目に見えているので、ぐっと押さえる。
「もう、言葉の綾ですから……。ええ、俺の言い方が悪かったです。聞かなかったことにして下さい。」
「ちぇっ、つまんねえ反応だな。」
渡海はつまらなさそうに呟いて黙ってしまった。

世良はいつも渡海に遊ばれる。こんなに好きなのに……
どんなに言葉を尽くしても、何度身体を重ねても、この人の全てが自分のモノにはならない。掴んだと思うとこぼれ落ちてしまう砂のようだ。
だから余計追いかけたくなる。抱き締めて、手放したくないと強く思うのだ。
たとえ渡海に恋情が無かったとしても、世良は彼を愛していた。
まるで初恋のように夢中だった。

どれくらいの時間が経っただろう。二人は床に座り込んで壁にもたれている。
黙っていた渡海がポケットから煙草を取り出した。
「ちょ、先生。こんなところで吸わないで下さいよ!」
「空調が利いてんだからいいだろ?」
「普通でもこういう場所は禁煙でしょ?!」
「……。」
さすがに渡海も思い直したらしく、それでも小さく舌打ちして煙草をしまう。
「…先生、口寂しいんですか?」
「ん?」
ぽろりとこぼれた世良の言葉に、渡海は気のない返事をする。
「暇だから口寂しくなってるんですよね?」
「世良ちゃん?」
訝しむ渡海に世良はぐっと詰め寄った。
「……キスしたい。」
「…盛るな。」
「最近は先生に触れてないし…俺も口寂しいんです……」
世良は返事を待たずに渡海の唇を塞いだ。
背けようとする顔を押さえ、角度を変えながら何度も。
「…っ お、いっ……!」
渡海の抗議を封じて飲み込み、世良はようやく顔を離し渡海に抱きついた。首筋に顔を埋め、じっとしている。
空調が生きているとはいえ、真夏の小さな密室で触れ合えばじっとりと汗ばんだ。
「…いい加減にしろ。」
「…好きなんです、先生が。」
「……。」
「好きで、好きで…苦しくなるくらい……好きだ。」
世良は渡海の白衣を握り締めて縋り付いた。
「苦しいならやめちまえ。」
「…出来れば苦労しません。」
「バカだな、お前は。」
その苦笑いを含んだ口調からも、世良を子供扱いしているのがよくわかる。
それが悔しくて、少しだけ悲しくて。それでも好きだと言う気持ちが萎える事は無かった。
「俺は…先生が思っている以上に先生の事が好きなんです。なのに…」

ガタンッ

唐突に大きな音がしてエレベーターの箱が揺れた。
「え?」
「どうやら助けが来たらしいな。」
渡海は今までの告白など無かったかのように、縋り付いた世良を引き剥がし立ち上がった。
「せ、先生…」
「バーカ、あんなとこ見られたら言い訳が面倒だ。」
渡海の言い切った言葉には照れ隠しの様子が一切見られず、世良を更に凹ませた。

エレベーターから救出されてみると、外は物々しい事になっていた。
消防のレスキュー隊と野次馬の人だかりに、世良は一瞬目眩がしそうになった。
「災難でしたわねぇ。」
そう声を掛けて来たのは藤原だった。
「まったくだ。こんなボロエレベーター、取り替えろってんだ。」
渡海は憮然と言い捨てる。
「…あら、渡海先生。白衣がずいぶんと皺ですこと。もうちょっと身だしなみに気を使った方がよろしいんじゃありません?」
まったく他意は無いのだろう。藤原は災難にあったばかりの人にも容赦ない。しかし渡海もそんな棘ある言葉など気にもしない。
「ああ、これは…」
渡海はわざと言葉を切って、意味ありげに世良を見た。急に視線を送られた世良はどきりとする。
「これは世良ちゃんの仕業ですよ。怖くなったんだか、寂しくなったんだかでしがみつかれちゃって…」
そういう嘘を面白おかしく、しかも大勢の前で大声で言うのだから始末が悪い。
「なっ…!!変な嘘言わないで下さいよっ!」
思わずかっとなって怒鳴ったら、今度は本当に目の前がクラッとする。
「え?」
一歩踏みだそうとした足に力が入らず、壁に手をついてしまった。
「…蒸し風呂だったからな。軽い脱水症状だろ?ちょっと休んどけよ。」
渡海は鼻先で笑うようにしてその場を後にした。
―――同じ状況だったのに、自分だけが醜態を晒すはめになるなんて……
思考力が低下する中で、世良は自己嫌悪に陥っていった。

その後世良は藤原の手で仮眠室に放り込まれ、水分補給をして安心からか1時間ほど熟睡した。
目覚めてすぐ目に入ったのは、枕元にあったスポーツドリンク。ナースが気を利かせて置いていったのか?
そこへ高階がやって来た。
「起きたね。大丈夫かい?」
「すみません、ご迷惑を掛けました。」
「いや、とんだ災難だったね。…うん、顔色も良いし大丈夫そうだね。」
高階は安心したように笑顔を見せると、枕元のスポーツドリンクに目を止めた。
「それは?」
「あ…起きたら置いてあったんです。」
「…ふうん。」
「?」
高階の興味深そうな顔つきに世良は首を傾げた。
「あの…これが何か?」
恐る恐る聞くと、高階は急にくすりと笑った。
「…まったく、あの人は。」
「は?」
世良の困惑はさらに深まり、高階の方は笑みが深まる。

「さっきね、そこの自販機でこれと同じ物を買ってる渡海先生を見かけただけだよ。」

高階はそう言うとクスクスと笑いが止まらないようだった。




―――エレベーターに乗っただけでこんな事を思い出すなんて、ね。
世良は内心で苦笑した。今までは思い出しもしなかったのに、渡海の母校というだけでこれだ。
それだけ世良の中で彼は特別な存在なのだ。
あの若かった頃の必死の想いが愛だったのか、憧憬だったのか。それは今冷静に考えてもどちらとも言えない。
ただひたすら渡海の側にいたい、繋がっていたいと願う日々だった。

大学病院を離れ、自由に動ける身になってから、仕事の合間に渡海の足跡を探しもした。しかしはかばかしくはなかった。もしかしたら国内にはいないのかもしれない、と思うようにもなった。
―――あの人は何者にも捕らわれない、自由な人だから。
それでもいつか会えるかもしれない、と世良は希望は捨ててはいない。
再会して今の自分を見たら、彼は何と言うだろう。
―――嫌われるかも…しれないな。
あの頃の自分とは変わってしまった。もう世間知らずの若造ではなく、世の中の裏も表も知って綺麗事だけでは済まされない仕事に従事し、時には狡猾に振る舞う事も覚えた。
そう自分を鑑みると世良は再び苦笑してしまった。

―――でも、やっぱり…嫌われたくないな。
世良は心の中でぽつりと呟いた。その時の横顔に一瞬だけ若かりし頃の恋する青年の面影がよぎった。

エレベーターが止まり目的の階に着いた。
その時にはもう、すっかり思考は切り替わり病院再建請負人の顔になっている。
これからの駆け引きの為に甘い感傷はいらない。自分の胸一つに閉まっておけば良い。

世良は過去の思い出にそっと蓋をした。愛しい人の名と面影が汚れてしまわないように…。


おしまい
 


恋ひ渡る(こいわたる)……長い月日の間に渡って、恋い慕い続けること。

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