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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.328
2012/07/09 (Mon) 11:53:53

もう一昨年のクリスマスなんですね~、喫茶店パラを書いたのって(汗)。
あれからずっと続きは書きたいと思ってたのですが、当初の設定と書きたい路線が変わってしまい思い切って変更したら収拾つかなくなって月日が経ってしまいました……

そんなワケで、今更ですがようやく完成したので投下します。
ここで以下に注意です。……あ、R指定じゃないから安心して下さい(笑)。

《設定》
田口~アンティークな喫茶店の不思議店主。属性はツンデレ。
速水~とある商社のサラリーマン。属性はデレデレ(笑)。

・年齢設定は…たぶん不惑直前くらい。おっさんには変わりない。
・後半の内容がかなり管理人の趣味に偏っています!
・名もないオリキャラ有り。

参考までに以前のお話は下のリンクからどうぞ。先に読んで頂いた方が設定とか分かり易いかと。
・貴方のために珈琲を… 前編
・貴方のために珈琲を… 後編

「もう、しょうどんじゃなくてもいいんじゃね?」な勢いのパラレルです(苦笑)。
そんな物でも覚悟の出来ている方はお進み下さい。

拍手[5回]



貴方のために珈琲を… 一期一会・前編

コンクリートビルの立ち並ぶオフィス街の一角。そこに年期の入った小さな建物がビルの間にぴったりと収まっている。
ここは知る人ぞ知る喫茶店だ。
店主の田口は人好きのする柔らかく静かな笑顔で客を迎えるが、それとは裏腹に頑固で時には意地悪い事もある。
そんな彼が恋に落ちて、相手を追って突然北へと向かったのは三年ほど前の事。結果めでたく想いが通じ合い、晴れて恋人同士となった。
そしてこのたび、その相手が再び元の本社勤務に戻り、田口も元の場所に店ごと戻って来た訳だ。

「よう!」
と言いながら想い人・速水がいつものように入って行くと、珍しい事に若い男の客がいた。しかも田口の知り合いらしく、カウンター越しに笑いながら話しかけていた。
「お、速水。いらっしゃい。」
いつものように笑顔を向けられると速水は仕事の疲れも吹き飛びそうだ。
「ああ…あなたが速水さんですか。」
田口に話していた男が急に速水に水を向けた。
「ああ、そうだが。お宅は?」
「すみません、自己紹介が遅れました。僕は彦根って言います。」
「俺の…まあ、仕事関係の後輩なんだ。」
曖昧な言い方だが、田口はいろいろと秘密の多い男だ。いちいち詮索していたらキリがないので「へぇ」と納得しておいた。
しかし彦根と言う男、まるで品定めをするように速水を眺めている。銀縁メガネの奥の瞳はまったく笑っていない。
「…俺に何か文句でもあるのか?」
そんな見方をされれば速水でなくとも気分を害するだろう。しかし彦根は謝罪するどころか、はっきりと言い放つ。
「いえ、田口先輩の想い人だからつい興味が沸いて。なんせ唐突に追いかけて行っちゃったもんだから、こっちは驚いたのなんの…」
「おい、やめろよ。」
「別にいいじゃないですか、本当の事なんだから。…本と珈琲にしか興味の無かった先輩を振り向かせて、更には手に入れてしまったのはどんな人かなって。」
「で、どうなんだ。お前の眼鏡に適ったのか?」
「さあ…僕は貴方をそれほど知りませんから何とも言えませんが…。ただ、先輩はすごい面食いだったんですね。」
「まあ褒め言葉ととっておこうか。」
「おい!いい加減にしろよ!!」
当事者抜きで進められる会話に田口の忍耐に限界が来た。
「ほら、お前人と約束あるんだろ。早く行けよ。」
まるで犬でも追い出すかのように田口は手を振って彦根を追い出しに掛かった。彦根の方も潮時と見たらしく大人しく引き下がって店のドアへと向かった。そして挨拶して出て行く時に思い出したように言った。
「あ、島津先輩も顔出すって言ってました。」
「げ。」
「あの人だってそりゃ心配してたんですから。突然連絡して来たと思ったら、唐突に『ちょっと北に引っ越すから』だけで行っちゃうんですもん。」
「…。」
「だからきちんと叱られて下さいね。」
それだけ言うと彦根は速水にも軽く会釈をして出ていった。その後ろ姿を見送って田口が参ったなと呟き頭をかいた。
「…ずいぶんと無茶してあっちに行ったみたいだな。」
心配しながらも、内心ではそれだけ田口に想われていたのかと嬉しくて溜まらなくなる。
「別に無茶なんかしてない。別に俺はあいつらに縛られてるわけじゃないんだから…好きにしただけさ。」
田口は肩を竦めて苦笑しながら速水のために珈琲を入れてやった。
「で、あいつは何なんだ?」
「だから後輩だって言っただろ。」
「…やけに親しげだったし。」
心配しているような、拗ねているような…まるで大きな子供のようで、田口はくすりと笑ってしまった。
「あいつとも付き合いが長いからなぁ。それに先輩を敬う気持ちなんて欠片も持ってない食えない男だよ。」
「…それだけか?」
「まさか…速水、妬いてるのか?」
「……悪いかよ。」
ちょっとむっとして開き直る速水が何だか可愛らしく見える。大の男を捕まえて可愛いなんて思えるのはもう、惚れた欲目なんだろうなと田口は内心で笑ってしまった。
「馬鹿だな。アレは長年の付き合いでぞんざいになってるだけだよ。お前とは違うって。」
田口は拗ねた恋人を宥めるべくカウンターから出てきて隣に座る。すると待ってましたとばかりに速水が田口を抱きしめる。
「俺の知らないお前を知ってるのが気に食わない。」
「そんなのお互い様だろ?俺だって会社でのお前を知らない。」
「でも何だか悔しいな。」
「アイツはひねくれ者だから人を小馬鹿にした言い回ししか出来ないんだ。」
本人が聞いたら憤慨しそうな暴言をさらりと言う田口も意地悪いと思う。
「でも…いいか。俺しか知らない顔もあるし。」
「え?」
田口が疑問な顔をすると
「ベッドの中での顔。」
と速水が耳元で囁き、そのついでに耳朶を甘噛みした。その甘い刺激に田口は思わず「あ…」と小さく色めいた声を上げて真っ赤になってしまい、恥ずかしさのあまり速水の背中を思い切り叩いてしまった。


「そう言えばずっと気になってたんだが。」
田口は答えられる事なら、と前置きして耳を傾ける。
「この店、名前はあるのか?」
これは最初から不思議だった。田口に誘われて初めてここが店だと分かったくらい年季の入った外観には看板らしき物も無ければ店の扉にペイントがある訳でもない。
正直、ここが店だと分かる人はまずいないのではないだろうか?
「名前、ねぇ…。付けたいのがあったんだが語感がしっくりこなくてさ。」
「どんなんだ?」
「『一期一会』」
「…へぇ」
速水も知っている言葉だが、実際はあまり使わないので今ひとつピンと来ない。
「今こうして会っている時間は二度と巡って来ないからこの時を大切にしましょう、って感じの意味だよな。」
田口が解説すると速水も何となく感覚が掴めた。
「元々は茶道のおもてなしの心得の言葉なんだが、そのままじゃ何だと思って英訳したかったんだが…」
「うまい訳が無い訳か。」
速水が先を答えると田口が苦笑して頷いた。日本独特の言葉を外国語に訳すのは難解だろう。
「結局考えあぐねてる内に時間が経って、その内お客も来るようになったからまぁいいか、って。」
「ほんと、いい加減なヤツだな。」
看板どころか、命名すらしないなんて物ぐさにも程があると速水は呆れてしまった。
「いいじゃないか。俺の心意気は『一期一会』なんだからさ。」
空になった速水のカップに田口はおかわりを注いだ。つまりはもう少し…もう一杯飲むくらいはここにいても良いと言うことだ。
「やっぱりさ、人との出会いって大事にしたいんだよな。せっかく飲んでもらう珈琲だって美味しく味わって欲しいし…。そう思うとその人の好みに合わせてブレンドとかしたくなる。」
速水は黙って聞きながら田口自慢の珈琲に口を付ける。速水の好みを知り尽くした絶妙のブレンドで、ここ以外では飲めない逸品だ。
「お前のその心意気は有り難いよ。きっと他の客だってそう思ってるさ。実際ここ以外のは口に合わなくなった。」
「…以前も言われたな。」
田口は微笑みながらその時の事を思い出す。
「そう言われるのは最高に嬉しいな。思い出の味を求めて来る人もいるよ、お年寄りなんかは。」
「へぇ。」
「昔、奥さんと一緒に飲んだ珈琲の味とか、旅先で飲んだ忘れられない味とか…。そういうのを聞き取って再現するのも悪くない。」
「…すごいな、お前。」
速水は純粋に驚く。もしかしたらこういうのが世に隠れた名人と言う奴なのかもしれないと思う。
「もっとそういうのを宣伝すれば客足が伸びるぞ?」
「冗談じゃない。俺はのんびりこの店をやりたいんだ。混雑するくらいなら店をたたむぞ。」
「…ったく、客商売の人間とは思えない言葉だな。」
憤慨する田口に再度呆れ顔で言う速水だった。
「空いてた方がやりやすいんだ。……俺一人でやってる店だからな。」
途中の間が少し気になったが、田口らしいかなと納得してしまう。それに自分で言っておきながらだが、もし人気が出て田口目当ての客が増えるようになったら気が気じゃない。彼の笑顔に癒されるのは自分だけではないだろう。晴れて恋人同士になったが、いくら田口を信用していても横恋慕されるのは我慢ならない。
「…そうだな。空いてる方がお前とも話がしやすいもんな。」
そう言い直して、この店の平和を祈った。

突然速水は背中にふわりと空気の流れを感じて、客が入って来た事を知った。ここで他の人に出くわすのは珍しい。
静かに入って来た客を見れば年輩の男性で、きれいに撫で付けた髪は銀色に近い白髪。カジュアルな装いだが上品に決めて手にはステッキを持ち、珍しい美しいラインのパイプをくわえていた。
田口は一瞬目を見開いたがすぐにいつもの柔らかい笑顔で挨拶をした。
「…いつものでよろしいですか?」
と問うと客も微笑んで頷き、奥のテーブル席に座った。
「あの人も常連なのか?」
速水はそっと小声で訪ねる。何となく声を出しづらい雰囲気だ。
「ああ、もう何年も通ってる人だよ。最初は奥さんと来てたんだが数年前に…な。」
「そっ…か」
もしかしたらさっき言ってたのはこの人の事かもしれない。速水は失礼にならない程度にそっと様子を伺った。が、間の悪い事にばっちりと目が合ってしまい疚しい事もないのに戸惑ってしまった。
しかし相手の方は(自分と比べれば)年若い男に対し微笑んで小さく会釈し、速水も慌てて会釈を返すとカウンターへ向きなおした。田口は彼の客の為に豆を吟味し真剣な顔でブレンドしている。
やがて珈琲が沸き田口が席へと持って行くと、何やら小声で会話がなされて帰って来た。その表情は何故か少し悲しげで、速水は声を掛けるのが躊躇われた。
そのまま無言の時間がしばらく続いたが、それは決して重苦しいものではなく、時の止まった清らかな静寂に感じられた。

奥の客がすっと立つ気配が感じられ、速水は振り向き田口は何故かカウンターから出て来た。
ほとんど無音で歩く客は扉の手前で田口に向かってまた笑顔で会釈をした。すると田口もにっこりと笑い、しかし丁寧なくらいに深くお辞儀をして「…お気をつけて」とだけ言った。
そして…終始無言で笑顔だった客は古めかしい扉を開けて……いなくなった。
速水は急に時間が動き始めたような不思議な錯覚に陥った。


「なぁ、今の人って…」
「あの人はもう来ないよ。今日はお別れを言いに来てくれたんだ。」
「そう、か。」
もう高齢だから外出も難しいのだろうか?それともどこか遠くへ引っ越すのだろうか?見知らぬ人なのに、とても印象的な老紳士だった。
「……そういうのは寂しいな。」
「うん…でもお礼を言われたよ。美味しい珈琲をありがとうって。」
田口は出したカップを片付けながら呟いた。
「出会った人達がみんな心安らいでくれるのが、俺にとっては有り難いことだよ。みんな笑顔で店を後にしてくれる。」
田口の瞳は思い出よりも更に遠くを見つめているようで、速水は急に不安に駆られ、席を立ちテーブル脇に立ち尽くす田口を抱きしめた。
「は、やみ?」
「どこにも行くな。」
「え?」
「何か意識だけどこかに飛んで行きそうな顔だった。」
「そんな馬鹿な。」
田口は速水の杞憂を一笑に付すが、速水は真剣だった。更に強く抱きしめて
「一緒にいる時は俺を…俺だけを見てろよ。」
と熱い吐息のようにこぼした。独占欲、愛おしさ、切望が混ざった台詞に田口ははにかむように笑う。
「…まるで三歳児のわがままだな。」
そう言って速水の背に腕を回すと、もっと胸に顔を埋めて抱きついた。
「お前の温もりは…嫌いじゃない。この感触も‥好きだ。」
「温もりや感触だけ?」
「……何を言わせたいんだよ?」
「別に…他意はないさ。」
速水はそっと身を引くと素早く田口の唇をかすめ取って笑った。
「今夜…泊まってもいいか?」
田口は苦笑しながらも小さく頷いた。



後編へ続く

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