ついったーで絡ませて頂いてるN様へのBDプレゼントリクです。
アニバーサリー的なしょうどん…が、いつの間にかアニバーサリー的なすずめ達にすり替わってしまった;;
と、とりあえず捧げてみます^^ヾ
今日は何の日?
《島津吾郎の場合》
島津が駅前のケーキ屋の前を通る時、ふとウインドウ越しに中を見ると速水と田口の二人がいた。肩を並べてケーキを選んでいるようだ。
―――行灯はともかく、速水がケーキとは珍しいな。
思わず足を止めそうになったが、島津ははっと我に返り見て見ぬ振りをした。
あの二人に…バカップル達にすすんで関わってはいけないと散々学習している。いくら友人とは言え、やはり付き合いにも限度と節度という物があるのだ。
『触らぬバカップルに面倒なし』
といい加減な格言を捻り出して、今見た光景を記憶から抹消すべく夕食の献立を考え始めた。
しかし、こっちが距離を置いても、残念ながら遠慮無しに近寄ってくる厄災と言うのもある。
翌日教室に入るなり、ソレはいた。
室内は密やかな声がそこここで聞こえ、視線は一点に集まっている。
その視線の先は…澱んだ空気が漂う。もちろんその中心から半径二メートルは誰も近付かない不毛地帯。澱みの発生源は島津に気付くと世にも情けない顔で近付いて来た。
「し~ま~づぅ~」
まるで生ける屍だ。呼ばれた島津はこの世の不幸を一身に背負った気分になった。
「……男前が台無しだな、速水。」
本当は近寄りたくない。脳内で警報音が鳴り響いている。しかし…と島津は自分の性格を呪った。
「話は講義の後だ。お前は目障りだから後ろの端っこにでも座っとけ。」
そう言って厄災を一時追い払った。
「……で、何があった?どうせ行灯との話だろ。手短に頼む。」
島津が学食の端まで速水を連れ出し聞き役になってやる。もう今までにも何度もあった事だ。
「……昨日はさ…記念日だったんだ。」
「記念日?」
「…初めて…行灯と……手ぇ繋いだ……」
「は?」
島津は耳を疑ったが、言った本人は大真面目らしい。
「だと思ってたんだ。俺はそう覚えてた。」
「……。」
「でも行灯は違うって言うんだ!昨日は初めて行灯の部屋に泊まった日だ…って……。で、アイツなんか怒っちゃってさ…触らせてもらえないどころか部屋から追い出された。」
―――バカか、こいつら。
この一言を内心に止めたのは奇跡だった。このしょげかえっている様子からすると行灯の記憶の方が正しかったようだ。どうやら記念日を間違えるのは常習らしい。
―――ん?ちょっと待てよ……
島津に疑問がふと湧いて来た。
「まさか行灯の奴……記念日とやらを全部覚えてるのか?しかも正確に?」
速水はこれまた大真面目な顔で頷いた。
島津には意外だった…と言うか、呆れ果てた。あのずぼらを絵に描いたような男がそんな細かい事にこだわるなんて思いもしなかった。恋をすると人間そんなに変わるものなのだろうか?
とにかくバカだ。二人とも大バカだ。
バカに付ける薬は無いと言うが、そんな二人が薬を扱う医者になると言うのだから世も末だ…と島津はしみじみ思ったのだった。
《彦根新吾の場合》
―――あ、先輩達だ。
彦根が通りかかったのは、リーズナブルだけどちょっと洒落たレストランの前。正確に言えば通りを挟んでのところだ。その店の前で速水と田口が並んで楽しそうに談笑している。
リーズナブルとは言え、学生の懐はそんなに潤沢ではないから何か特別な日なのかな、と彦根は推測する。
―――特別と言えば…
先日島津が遭遇した被害の話を思い出した。しかしあの様子からするとあの時の二の舞にはなりそうではない。
―――あの二人…こっちに被害さえなければ波風立ってた方が面白いんだけどな。
などと不穏な事を思いながら、彦根はその場を後にした。
翌日学校で会った速水はご機嫌だった。
何というか…いつもより力強くキラキラしている感じ。恋してますオーラ全開の輝かしさだ。
つまり昨晩は田口と散々仲良くいたしたのだろう。
「よ、彦根!今日すずめ来るか?」
上機嫌で声を掛けられ、彦根はそれはそれで鬱陶しいと思った。
「…いや、今日は部活の集まりがあるんで。」
「何だよ、お前もか。」
「お前もって?」
「島津にも同じ事言われて断られた。」
あ、島津先輩も逃げたんだ…と彦根は内心苦笑した。この状況でバカップルと対峙すれば気力が根こそぎ奪われ、負けが見える勝負など誰もしたくない。そう思ったら自然と小さな溜息が出てしまった。
「ん、どうしたんだよ?」
「…いえ、先輩は元気だなぁって」
そこまで言って彦根はしまったと口をつぐんだ。その途端、速水の顔が更にパッと明るくなった。
「そりゃもう…」
そう言う速水の表情が脂下がってピンクの幸せオーラがだだ漏れになる。
「もう行灯が可愛くってさぁ……」
―――ああ、始まった。
うんざりするが、幸せボケしている速水はそんなこと気付きもしなければ構いもしない。お願いもしていない惚気を滔々と聞かされるハメになった。
ようやく速水から解放されたと思ったら今度は田口にばったりと出会った。
「あ、彦根。速水知らないか?」
別に田口に非は無いが…何だかイラッと来た。
「ああ、さっきまで話してましたよ。散々昨日の惚気話を聞かされました。」
「えっ!」
「昨日は初デートの記念日だったんですよね?行灯が可愛い、可愛いって顔が緩みきってましたよ。」
にこやかに話す彦根に田口は若干の恐ろしさを感じながらも、顔色は赤くなったり青くなったりと忙しい。
彦根は最後にこうも付け加えた。
「速水先輩、よほど嬉しかったんでしょうねぇ…夜の枕事情までつぶさに語り出しそうな勢いでしたから。」
「なっ…なにっ!!」
田口は耳から首から真っ赤になって叫んだ。
「先輩、落ち着いて…大丈夫です、それはさすがに止めました。僕だって聞きたくありませんし…。まぁ、先輩からちゃんと釘を刺しておいた方がいいですよ。あんまり浮かれ過ぎないようにって。」
と彦根は人の良さそうな親切顔でアドバイスしてやると、田口は「あのバカ!」と悪態を吐きながら怒って行ってしまった。
本当はそんな大げさな話ではなかった。艶めいた話も無かった。
ただ見せつけられるのが癪に障る。
田口のすべてを掌中に収めたと宣言されているようで…ムカつく。
―――速水先輩なんて…しばらく田口先輩に愛想を尽かされればいいんだ。
彦根は田口の後ろ姿を見送りながら、速水の顔に真っ赤な手形が張り付いているのを想像してくすりと笑った。
《すずめ四天王の場合》
「なぁ、終わったらウチに来いよ。」
いつもの面子で麻雀卓を囲んでいると田口が声を上げた。
「別にかまわんが…」
いつもの事だろうが、と島津は速水と彦根を見るとやはり二人とも不思議な顔付きだった。
田口の部屋に行ってみると何故だか小さいながらもホールのケーキが用意されていた。
「おいおい…今度は何の記念日だよ?」
「二人の記念日に巻き込むのは勘弁して下さい。」
二人が口々に文句を言えば、速水はその隣で一人でぶつぶつと言いながら何の記念日なのか真剣に記憶を探っている。
「違うって。俺達のだったら呼ばないから安心しろ。」
ケーキに酒は変だな、と言いながら田口はコーヒーの準備をし始める。
―――一応、自覚はあるんだ…。
と島津と彦根が思ったのは秘密だ。
「おい行灯、今日は何だよ?」
痺れを切らした速水が真っ先に苛立った声を上げた。田口はキッチンから皿と包丁を持って来るとケーキを切り分けながら言った。
「今日はみんなで初めて麻雀した日だよ。」
「「「え…」」」
三人は顔を見合わせた。そしてにこやかな顔で、本当に嬉しそうな田口の顔を見てとっさに言葉が出なかった。
「何かさ…気が合ってすごい楽しかったんだよ、あん時。それで気付いたらこんなに仲良くなっててさ。こんなに楽しいならずっと続けばいいなぁって…」
言ってる本人も、改めて口にすると恥ずかしいのだろう。三人の方へなかなか顔を向けない。
島津はちょっと呆れながらも満更ではない顔で頭を掻いている。彦根も小さく、こっそりと嘆息しながら「参ったなぁ」と呟きながら笑みをこぼした。
そして速水は…優しい笑顔になって、田口の髪をくしゃりと混ぜて
「そうだな…ずっと付き合いが続くといいな。」
と言った。
まさかこの言葉が本当になって、二十年後も連んでいるとは…この時は思いもしなかった。
腐れ縁どころか、一蓮托生にまで近い仲にまでなるなんて。
これからの人生いろいろあるだろうけれど、綺麗事では済まない時もあるだろうけれど…それでも大事な友人達。
そんな彼らとの記念日が一つでも増やせれば良いな、と田口は思っていた。
おしまい
若かりし頃の行灯が意外と記念日好きだったら楽しいなぁ…なんて思ってます。恋の力は偉大ですからw