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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.265
2011/11/03 (Thu) 11:02:17

や、迷ってるんですよね~、春コミ。
勢いで申し込んでしまうか。でも新刊が出せるのか(汗)。
そして当選するのか?ここ大事ね。最近はクジ運が微妙だからな~;;
揺れる腐女子(貴腐人?主腐?)心です。

さて更新。
何だか薄暗い話になってしまったです;; 最後は大丈夫ですけどね。
こちらも迷いながらのお話です。

拍手[12回]


エンプーサの誘惑

「まったく…すごい出世だな。」
嫌みや妬みではない。田口の言葉には純粋に感心しているニュアンスが込められている。
速水が救命救急センターの長になったのだ。彼の若さでは異例の抜擢だった。
「まあな…おかげさまで。」
速水は別に出世したい訳ではなかったが、自分が思う存分腕を振るえる場を与えられたのは嬉しいことだった。

「男前で腕が立つ外科医で、しかもセンター長と来れば注目度ナンバーワンだ。」
「別に目立ちたい訳じゃないぞ?」
苦笑しながら田口を抱き寄せようと手を伸ばした。が、田口は何故か笑いながらも一歩下がって速水の手を避けた。
「行灯?」
「お前は無頓着過ぎるよ。…こうやって良くも悪くも注目されて、いろんな噂をたてられて……」
「…何言ってんだ?」
「そうやってる内に、俺との事がバレるかもしれない。俺はお前の足枷にはなりたくないんだ。」
「おいっ!」
速水が声を荒げて一歩踏み出しても、田口はまた下がってドアノブに手をかけている。
「…じゃあな、速水。楽しかったよ、お前との時間。」
悲しいくらいに清しい笑顔で田口はドアから出て行ってしまった。

「行灯っ!」
速水が腹の底から声を上げて叫んだ瞬間、目の前が真っ暗にブラックアウトした。


速水ははっと目を覚ました。
今日は休日で田口の家に遊びに来ているのだが、田口が買い物に出ている間に眠ってしまったらしい。
変な夢を見た気がする。少しだけ鼓動が乱れているが、どんな夢だったかなどすっかり忘れてしまった。
目覚めた瞬間に忘れてしまうなんてよくある事だと自分を納得させた。
田口が帰って来て、コーヒーを飲みながら互いの近況に話になった。

「まったく…すごい出世だな。」
速水は今度救命救急センター長に決定したのだ。彼の若さでは異例の抜擢だった。
「まあな…おかげさまで。」
速水は照れながらも、充実した気分だった。
「男前で腕が立つ外科医で、しかもセンター長と来れば注目度ナンバーワンだ。」
「別に目立ちたい訳じゃないぞ?」
苦笑しながら田口を抱き寄せようと手を伸ばした。が、田口は何故か笑いながらも一歩下がって速水の手を避けた。
「行灯?」
―――あ、れ?この会話……
速水は何となく違和感を覚えた。
「お前は無頓着過ぎるよ。…こうやって良くも悪くも注目されて、いろんな噂をたてられて……」
「…おい、これって……?」
「そうやってる内に、俺との事がバレるかもしれない。俺はお前の足枷にはなりたくないんだ。」
儚い笑顔の田口が速水から遠ざかる。
「待てっ、行灯!」
「じゃあな、速水。」
速水は夢の内容をはっきりと思い出した。
―――まったく同じじゃないか!
田口がドアの向こうへと消えた。速水は今度こそ逃がすまいとドアを開けた。

―――そこは、真っ暗闇だった。
勢いづいていた速水は踏み出した闇の中へと声も無く落ちて行った。


「…やみ!…は、やみ…起きろよ!」
「…っ …え……?」
「ったく…打ってる途中で寝るくらいなら止めればよかったのに。」
速水が寝ぼけ眼を開けると、そこは見慣れたいつもの雀荘。見回すと呆れ顔の田口しか見当たらない。
「あ…れ?島津達は?」
「あいつらも呆れて帰ったよ。」
「そう…か、悪かった。最近練習がきついんだよな。」
そう言って速水はひとつ大きな伸びをした。そんな様子を田口は少し心配そうに見ている。
「なあ…大丈夫か?何か顔色が良くない。」
「何だよ、全然平気だぜ?」
「心配事とかあるなら…力になれるか分からないけど遠慮なく言えよ?」
そう言って速水の顔をのぞき込む田口は真剣だ。そんな心遣いを嬉しく思う。
「ああ…サンキュ。」
と速水が笑顔で返すと、田口もようやっと愁眉を開いた。
「ホント遠慮すんなよ?俺たちは親友なんだからな。」
「…しん、ゆう……?」
何故かこの一言が引っかかった。胸が僅かに痛む。
「じゃあな!お前も帰ってゆっくり休めよ。」
田口はそう言い残して出て行った。残された速水は呆然と見送り、ふと壁に貼ってある鏡を見た。
そこに映るのは年若い自分。まだ頼りなさげで外科医の顔ではない。一体何年前の……
瞬時に叫んだ。
「違うっ!早く目覚めろっ!!」
その怒声に反応したように鏡が弾け飛び、破片が速水に向かって来た。思わず顔を両腕でかばった。


衝撃に備えたが何も起こらず、そっと腕を下げると今度は真っ白な霧の中にいた。
―――まだ夢…か。
焦る速水の周りで霧が動き始め前方の霞が薄れると、その向こうに誰かが立っている。
見間違う事はない。あれは田口だ。
「行灯っ!」
駆け寄ると速水の大好きな温かい笑顔で田口は待っていた。
しかし視線が合わない。田口は速水のもっと後方を見つめていて、速水の事など眼中に無い様子だ。
「おい、こっち向けよ!」
視線を遮ろうと速水が身体を動かした瞬間、田口の姿が消えて見ていた方へと移動していた。その隣には速水の知らない影が寄り添う。
「!?」
田口はその影と談笑しながら遠ざかって行く。
「おい!待て…待ってくれっ!」
そう叫んでも田口は振り向きもしない。その内に影の数が増えてどんどん田口に群がる。やがて影から手足が伸び田口に絡み付き、それはやがて愛撫へと変わる。
「田口っ!!」
平静でなんていられず、余裕なく名字で叫ぶ。しかし無数の手足に絡め取られながらも田口は笑顔だ。そしてその笑顔は段々と愉悦に変わる。
「ち…がう…… あんなの、田口じゃないっ!」
速水は半分泣いていたかもしれない。腹の底から大声で叫んだ。
「いい加減にしろっ!!」

おぞましい風景は瞬時に止まり、速水の目の前で砂嵐になって消え去った。
そして速水の意識は再び暗転した。


『…何で認めないんだ?』
冷たい暗闇で目覚めた速水の耳に、なんとなく聞き覚えのある声が響いた。
「誰だ?」
『誰?……くくっ…声を聴けば分かるだろ?』
…分かっていた。それは紛れもなく自分自身の声だ。
『認めれば目覚めた時、楽になれたのに…どうして認めない?』
「認めるって何をだよ?!」
『今までの夢を…だよ。』
「…。」
『あの男と別れる夢…親友に戻る夢……そしてお前以外の誰かに』
「うるさいっ、黙れっ!」
自分の声がこんなに耳障りに聞こえるなんて思いもしなかった。吐き気がするほど気分が悪い。
「何であんな夢を認めなくちゃならない!馬鹿らしい。」
『くっくっく…そうかな?お前は一度も考えた事はないのか?あの夢の通りの事を。』
「え…」
速水は虚を突かれた。声は更に問う。
『あの男を重荷に思った事は?浮気を疑った事は?…無いと言い切れるのか?』
「そん、な…こと……無いに決まってる。」
『本当に?』
しつこく粘着質な問いかけに、速水の忍耐が切れた。
「やめろっ!俺は田口を愛してるんだっ!」
『…愛?』
その声には侮蔑の色が含まれている。
『愛、か…。そう思ってるならそれでもいいさ。まあ、しばらく足掻くんだな。』
一方的に会話を切られた途端、速水は突然背中を押された。
「え?」
と思った瞬間、身体が落下した。真っ暗闇の穴とおぼしき中にストンと付き落とされたのだ。

何故か声は出なかった。恐怖よりも先ほどの問答の方が気になっていた。
果たして自分は本当にこの愛情を疑ったことは無かっただろうか?
忙しくてなかなか会えない。それが嫌でこんなことならいっそ…とか、愛しすぎて苦しくて親友の方がマシだったなんて思った事は無かっただろうか?
あまり長期間会えないと、田口が心変わりしていないだろうか…と思った事も無かったか?

嘘だ。
無かったとは言えない。
それはひとえに田口を想って、想い過ぎて…自分だけを見ていて欲しかったから。

本当に? 本当にそれだけか?

速水の思考がどんどん絡まっていく。それに反応するかのように真っ黒な闇が真綿のように速水に絡み息苦しくなる。
もがけばもがくほど絡め取られ身動きできず、叫び声も上げられない。
すると誰かが身体を揺さぶった。今度は頬を軽く叩かれた。温かい手だ。

『…い!大丈夫か?…お、きろよ!』
微かに聞き取れた声に速水は目を開けた。


目覚めた時、速水が最初に見たのは心配そうにのぞき込む田口の顔だった。
―――そう、だった…昨日の深夜に……
連続勤務の地獄から解放され、田口の部屋に押し掛けたのが深夜過ぎだった。
そして田口に触れたら情欲が我慢できず、獣のように貪った。それでも田口は何も言わずに抱かれていた。
「っ、…」
喉が、唇が乾いていて声が出ない。これもまた夢の続きかと恐れるが、触れる田口の手の温もりが現実だと語っていた。
「大丈夫か?何だかひどくうなされてた。」
「…あ、あぁ……」
カラカラの喉から絞り出した声はひどく枯れていて、まともに会話が出来ないと分かった田口が水を汲んで持ってきた。
水分よりも何よりも、今欲しいのは……
戻ってきた田口を速水は思いきり抱き締めた。抱き締めてその首筋に顔を埋めて、しばらくそのまま動かなかった。
速水の様子がいつもと違う事に気付いて、田口も黙って速水の背中を抱いてやった。

「……酷い夢を見た。」
「うん」
「お前に別れを言われたり、恋人でなく親友扱いされたり……他の奴と…どっか行っちまたりして…俺の事なんか眼中に無くて…」
「うん…」
会話の間も速水は田口を抱き、田口はまるで子供をあやす様に背中をさすってやっている。
「すげー怖かった。これは…俺が望んでいる事なんじゃないか…って」
「速水?」
「会えない度にお前を疑って…それが嫌で辛くて。本当はお前の事を」
「ちょ、ちょっと待て速水。お前それってさ…」
田口が初めて言葉を遮り、速水の顔を上げさせた。
「お前…それは『望み』じゃなくて、『恐れ』じゃないか?」
「え…」
「俺と別れるとか友達に戻りたいとか、マジで考えた事あるのか?」
黙って首を横に振る速水を田口は苦笑しながら、それでも愛おしそうに見つめた。
「馬鹿だなぁ…。深層心理は望みだけでなく、恐れだってあるんだぞ。いいか、よく聞け。」
田口は速水の頬に両手を添えて、しっかりと目を見つめた。
「こんだけ長い付き合いなんだ。会えないくらいで愛想を尽かしたならとっくの昔に別れてる。友人に戻るって言っても、今は友人兼恋人だろ?甘ったるいだけの付き合いなんて面白味にかけるじゃないか。」
「……。」
「それに他の誰かとだなんて…こんな冴えない四十男に好んで手を出す奴なんてお前だけだ。男前なのにとんだ悪食だよ、お前は。」
そう言って速水の悪夢を笑い飛ばしてしまった。その笑顔ひとつで田口は人を…速水を救うのだ。
「…男前はお前だよ、行灯。」
速水は少し泣きそうな笑顔をごまかすのに田口を再び抱き締めた。その腕の中で田口はまた笑いながら「からかうな。」と速水の髪をくしゃりと混ぜ返した。

「さ、もう寝ようぜ。疲れて眠りが浅いからそんな下らない夢を見るんだ。」
二人は一つの布団にくるまると向かい合った。
「おやすみ、速水。」
「ああ、おやすみ。今度は良い夢が見られそうだ。」
「バカ。お前は夢も見ないくらい熟睡しろ。」
田口は苦笑をしながら目を閉じてしまった。

―――…おやすみ、行灯。また明日、な。
速水は瞼の裏に田口の笑顔を浮かべたまま眠りについた。
今度は穏やかに眠れそうな予感がした。
 


※エンプーサ…ギリシャ神話に出てくる夢魔の一種
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