いろんな初めてで迷いました。『初めて』と言うキーワードは妄想が膨らみます。
膨らみすぎて……自爆した感が否めません;;
今回選んだのは『初めての大喧嘩』と『初めての危機一髪』。
あんまり甘くない初めてですみません。
でも、一応最後はバカップル仕様にまとめました(笑)。
キリ番ゲッターのPさま。拙い作品ですがご笑納頂ければ幸いです。
追伸
4444キリ番を申告して頂いたAさま。
申告&リクエスト、ありがとうございましたw
楽しそうなお題、頑張って書きますよ~!少しお時間を頂くことになりそうなので、しばらくお待ち下さいね。
帰り花
鍋物が恋しくなる寒い夜。口論は唐突に勃発した。
「…てめぇ……もう一度言ってみやがれっ!!」
「ああ、何度でも言ってやるよっ!だからお前はお子様なんだよっ!!」
「お前ら、いい加減にしろよ…。近所迷惑だぞ?」
「そうですよ。安普請のアパートじゃ全体に丸聞こえですって。」
今まで一緒に鍋を突いていた島津と彦根がさり気なく割って入るが、程よく酒も入り頭に血が上っている速水と田口には火に油を注ぐようなものだ。
「うるさい、彦根。安普請は余計なお世話だ!」
完全に怒髪天の田口など珍しい。
と言うか、こんな険悪な二人は初めてだ。互いに睨み合って一歩も譲る様子はない。いつもは貶し合っても何となくどちらかが折れて他愛ない痴話喧嘩で終わる。それに毎度付き合わされる方は馬鹿馬鹿しくてやってられないのが本音だ。
しかし今回は、痴話喧嘩には変わりないがあまりにも酷い。酒の力も借りているから尚更悪循環だ。
そんなギャラリーなど眼中に無い二人は無言のまま睨み合う。
「………お前の顔なんて見たくねぇ。」
速水が恐ろしいほどの低音で言えば
「………ああ、俺だって同じだ。」
と吐き捨てるように返す田口。
睨み合ったままじりじりと距離が広がり、田口は玄関の所まで達するとぷいっと部屋を後にした。
「…ったく……いい歳した男がみっともないし、情けない。」
島津が心底呆れ果てて零しても、速水の怒りは収まらない。
「うるせぇ!あいつが悪いんだっ!そもそも奴が…」
「ああ、分かったから…もう、うるさい!」
島津は完全に匙を投げ、その横で彦根が冷静に突っ込んだ。
「…家主の田口先輩が出てっちゃって……どうしまょうかね?」
「何で行灯が出て行くんだ?この場面なら出て行くのは速水だろ?」
「何となく勢い余っちゃったんですねぇ。まぁ…先輩らしいですよ。」
いくら何でも戸締まりもせずには帰れない。合鍵などないから家主が戻るまで待ちぼうけだ。
田口が部屋を飛び出して30分ほどが経過した。
残された三人の間には居たたまれない沈黙が続いている。
「…外、寒くなったかな?」
島津の何気ない一言に速水の肩が揺れた。そこにたたみ掛けるように彦根が続く。
「多分寒いですよ。ほら、窓に結露が……」
また速水の肩が揺れる。
「夜中に一人で出歩いてると不審者に間違われそうだよな。」
「ああ、でも田口先輩だったら逆でしょ?」
速水の小さな身動きが止まらないのが面白くて、二人は更に悪乗りする。
「そういえば、そこの十字路に新しく立て看板が出てたよな?」
「アレね。『痴漢・変質者にご注意!!』ってヤツ。確かにこの辺は街灯も人通りも少なめだから危ないですよね。」
「あんなのが出てるって事は、最近何か事件でも……」
ガタンッ!!
突然速水が立ち上がった。
「ん、どうした?」
島津がわざとらしく聞くと
「……ビール、買ってくる。」
と速水は答え、ジャケットとマフラーで防寒して出て行った。
テーブルの上にはまだロング缶が3本残っていたが、誰も何も言わなかった。
「……やっと行ったか。」
「田口先輩のジャケットも持って行けばよかったのに。」
「馬鹿にだってそれなりの見栄と矜持があるんだろ?」
島津と彦根は大きく嘆息した。
「ちっ…行灯め……」
速水は小さく愚痴りながら人気のない深夜の住宅街を歩く。
喧嘩の切っ掛けなど、怒りすぎてもう忘れてしまった。今腹立たしいのは、自分の目の届く範囲に田口がいない事だ。
あんなに感情をむき出しに怒った田口を見るのは初めてだった。それがまた腹立たしさを倍増させて喧嘩を収める切っ掛けを失ってしまった。
「どこ行ったんだよ、ったく。」
何度も通い慣れた道だが昼と夜では雰囲気がだいぶ違う。彦根が言っていたように街灯が少ないから人とすれ違っても顔の判別も難しいだろう。
……犯罪にはうってつけな条件だ。
―――あいつはお人好しで危機管理がなってないから、声を掛けられても平気で応えるだろう。
速水は何となく嫌な予感がした。初めて感じる恐ろしいくらいの焦燥感。
いつしか徒歩が早足になって…終いには駆け足になっていた。
「何で俺が出てきちゃったんだろう?」
深夜の寒さに身を竦ませながら、田口は歩き続けた。大通りのコンビニに飛び込んで暖を取ろうと思ったら、運悪く電気設備の点検で休業していたのだ。
とぼとぼと歩きながら思う。
速水とこんなに言い争ったのは初めてだった。最初は些細な意見の食い違いだったはずだ。それが気付くとヒートアップしてどちらも譲れなくなってしまった。
「でも…!あいつだって人の話を頭から否定するから悪いんだっ!」
また怒りが沸々と湧いて来て、拳を握り締める。
「よし、帰るぞ。」
―――もしかしたら速水は帰ったかもしれないし、いたとしてもガツンと言ってやる!
ついでに自宅を自ら飛び出してしまった理不尽さもぶつけてやるっ!と頭を冷やすどころか、再沸騰状態で帰路につく。
すると……
右手の路地から人影が飛び出し、危うく田口と激突しそうになった。
速水は走った。商店街も住宅街の外れにある公園も見たがいなかった。コンビニは臨時休業だし…いったい何処をほっつき歩いているんだろう。
もう一度、アパートの近くから探してみようと踵を返した。この寒さだ、もしかしたらすでに部屋に戻っているかもしれない。
吐く息も白く、速水は来た道を戻り再び住宅街へ繋がる路地に入った。
すると、前方で言い争う声がする。暗がりで片方がが無理矢理抱き寄せようとするのを、その相手が必死に身を捩って抵抗している。
―――痴漢かっ?!
田口も大事だが、目の前で行われている卑劣な犯罪を見逃す訳にはいかない。
「おいっ!何やってんだっ!!」
まだ距離はあるが、剣道部の気合いの入った大声は相手を怯ませるには充分だった。二人の揉み合いが一瞬止まり、被害者が声を上げた。
「は、速水っ?!」
「えっ?!あ、行灯?!」
予想外の形の再会に一瞬気が散漫になった。痴漢はそれを察して田口を突き飛ばして逃げ出した。
「あっ、待てっ!!」
速水は逃がすまいと気合いを入れ直して走った。
自分の目の前で田口に不埒な真似をするなんていい度胸だ。骨の2~3本は覚悟してもらおう…と物騒な事を考えていた。
「速水っ!」
突き飛ばされて尻餅を付いている田口が追おうとする速水に声を掛け、とっさに翻るジャケットの裾を掴んだ。
「おいっ、逃げ」
「いいから!行くなっ!」
「だって…」
「いいから…俺を……置いていくな…」
言葉尻が弱々しく小声になり、速水は慌てて様子を窺った。
「大丈夫か!どっか怪我でもしたか?!」
田口は俯いて首を横に振るばかり。速水は痴漢が逃げた方向を見たがすでにその姿は無かった。
「おい、行灯……立てるか?」
逃したのは悔しかったが、動けない田口の方が心配だ。
どうやら衝撃で身体が強張っているようなので、速水が手を貸してやってようやく立ち上がれた。それから身体を支えてやってゆっくりと歩き出す。
田口は事の顛末をぽつりぽつりと話した。
歩いていたらぶつかりそうになった事。
迷ったので大通りまでの道順を教えてくれと頼まれた事。
差し出されたメモ紙に地図を書いていたら、突然抱きしめられた事。
「まさか男の俺がこんな目に遭うとは思わなかった…」
「そういう変質者もいるんだ。もうちょっと注意しろよ。」
「俺に触れたがる変態なんて、お前くらいだと思ってたよ。」
「こら、恋人に向かって変態とは何だ!」
思わず速水が声を荒げて田口を見ると…その顔が上手く笑えずに歪んでいた。
「おい……」
「こ、怖かった…んだ。」
田口の声が僅かに上擦って、震えていた。
「……。」
「お前以外の男に触れられて…お前以外の男に抱きしめられる事がすごく怖いって……初めてそう思った。」
「田口…」
普段は使わない呼び方をすると、一瞬驚いて…そして今度こそ小さく照れながら笑った。
速水は思わず田口を抱きしめた。両腕の中にすっぽりと収めた身体を大事に優しく、宝物を包むように。
田口も大人しく腕の中に収まった。こうしていると…もうあの恐ろしさは無かった。
そして……先程までの怒りも喧嘩も、すっかり忘れて暗がりで甘い雰囲気に酔いしれていた。
「お、帰って来た。」
「……何です?あのピンクな空気。」
田口は速水のジャケットを着せられていた。しかも手まで繋いでのご帰還だ。
島津と彦根は何となく気になって帰りを待ちながら外を眺めていた。食卓の鍋はいつの間にか雑炊になり、ほとんどが二人の胃の中に収まっていた。
そこへ思わぬバカップルショーを目撃してしまった精神的ダメージは大きい。
「『似た者夫婦』?」
「いや『割れ鍋に綴じ蓋』で充分だ。」
「さすがです、島津先輩。」
そして顔を見合わせてげんなりとして、そそくさと帰り支度を始めた。
これ以上ここに居座る理由は何もない。むしろお断りだ。
「なぁ、俺達っていつも割に合わないと思わねぇか?」
「まったく…その通りですね。明日にでも多額の慰謝料を請求しましょうか。」
明日のすずめは楽しいことになりそうですね~、と爽やかに笑った彦根に真っ黒い羽と尖った尻尾が見えたのは気のせいではないだろう。
島津は見て見ぬふりをして一緒に笑った。
しかしその笑顔の中にも棘が見え隠れしていたのは仕方ないことだ。
そんな事は何も知らないバカップルは、甘ったるい空気を背負ってアパートの階段を昇っていた。
行灯初めての貞操の危機?!
タイトルの「帰り花」とは11月の小春日和の頃、草木が本来の季節とは違って花が咲いてしまうこと。つまりは狂い咲き。
寒い深夜に場所も弁えずに咲いたバカップルの花です。きっといかがわしいピンク色なんです(笑)。
まず、こんなに早くリク受けて頂きありがとうございます!!
何か行灯センセの怒髪天なんて珍しくて、そして滅多に将軍に甘えないじゃないですか。学生だからできる事って感じで。すごく新鮮でした。
そしてしっかりバカップルで終わっていただき、読んでニヤニヤでした←バカ…また島津&彦根コンビも出てきて大笑いでした。
本当に嬉しいです。ありがとうございますv
また遅くなりましたが、通販本も楽しく読ませてもらいました。
「ALL or Nothing」記憶喪失ネタ大好きです!
最初の頃一生懸命耐えている将軍がちょっと健気って思った私は所詮行灯センセファン。
しかしポイントは一番最後ですね。
もう最後のセリフは将軍格好いいぞと思いました。でも結局二人とも互いを思いすぎるのですよね。行灯センセの不安を将軍がこれからもバッサバッサ斬っていって欲しいです。
またアソートブックも大好きです。短くピリリとしたお話は読み手側にも想像を掻き立てられるといいますか…この後どうなるのかなとか。楽しく読ませてもらいました。
これからもサイトの方伺わせてもらいます。
お体等気をつけて。本当にキリリクありがとうございました