「行灯を帰すな!」コールを頂戴しています(笑)。まぁ、その辺は読んでのお楽しみでw
今回はちょい長め。将軍にちょっと感情移入し過ぎたかな;;
午前中だけど、買い物に行って来ます。隣駅の店で半期に一度の決算バーゲンだ!
では、連載も買い物もいざ!
Fall in love 4
【Side H】
会いたい、と思った数日後。高階病院長から連絡が入った。
田口がそちらに行くから、もし週末に空きがあれば少しのんびりさせてやってくれないか、とのことだった。
断る理由など無かったから、俺は了解した。
週末のシフト調整をして土曜日の休みをもぎ取った。
会って確かめたかった。花房に言われた『特別』の意味を…。
最初は彼女に言われたからその気になって流されたのかもしれないと思った。
でもそうではないような気がする。自分は何かを見落としているような感じがする。
これはあくまでも勘だ。花房の一言は単なるきっかけに過ぎない…と感じる。
自分の事なのに、ひどく心許ない感情が俺を苛立たせた。
夕方早めに切り上げて、田口が訪ねる大学まで車を飛ばした。本当なら携帯にでも連絡して待ち合わせればいいのだろうが、それはしなかった。
あいつを驚かせたかったのもあるが、なんとなく連絡はしない方が良いと俺の勘が告げていた。
そうなるとどこであいつを捕獲するか迷ったが、ベタに大学の正門で待ち伏せることにした。
もういないかもしれない。でも待ってみたかった。
そして…この日は運が俺に味方した。
日帰りだと聞きがっかりしたが、少しでも話がしたくて空港まで送ると言えば素直に乗ってくれたので内心ほっとした。
しかしコイツは眠ってしまった。わざとタイミングを外してるんじゃないかと疑ったくらいだ。
余計な気苦労を背負い込んでいるのだろう。本気で眠そうなので、今は睡魔に譲ってやる事にした。
眠る横顔をそっと見ると本当に疲れているのが分かって、俺は小さくため息を吐いた。
この辺りは郊外なので道幅が広い割に、車は少ない。
俺は車を路肩に止めて、もう一度寝顔を見つめた。
少し窶れたし、顔色もあまり良くない。
ちゃんと飯を食ってるのか?毎晩眠れているのか?本当に体調を崩していないだろうか?
座席を少し倒して傾けた顔に、あまり手入れしていない髪が掛かっている。俺は無意識に顔に手をやり、髪を払ってやる。そしてそのまま少し痩せた頬を包んだ。
「お前が働きすぎなんて、天変地異の前触れかよ…」
こいつには柔らかい光の差す場所が似合う。穏やかでゆったりと漂う時間の中にいるのが誰よりも似合っている。こいつの疲れた顔なんて見たくなかった。
「…行灯のくせに忙しいなんて、生意気だぜ。」
かさついた唇が疲労感をいっそう際だたせる。
手が自然に動き、指先が唇をなぞろうとした時…
「…ぅん……」
田口が身じろぎはっとした。
俺は何をやってるんだ?行灯相手に何をした?
しかし…嫌ではなかった。今した事も、思った事も自然と沸き上がって来た感情だった。
この感情はいったい何なんだ?
呆然としていると田口がもう一度動き、俺は慌てて車を発進させた。
空港に着き出発ロビーまで見送ることにした。断られたが俺は強引に付いて行った。それだけ別れ難かったのだ。
出発時刻になり搭乗が始まると、やはり帰したくないと思う気持ちが強くなる。が、田口には俺のそんな気持ちは解らない。
「じゃあ…元気でな。程々に頑張れよ?」
田口が小さく笑顔を見せた。少しでも笑ったのは今日初めてじゃないだろうか。それだけ心に憂いがあるのだろうか…。
「ああ、お前もな。」
気の利いた言葉がなかなか見つからない内に、田口はゲートへと消えて行き、俺はそれをぼんやりと眺めることしか出来なかった。
田口の乗った最終便が飛び立って30分。俺はまだ自宅へ戻る途中だった。
何気なく聞いていたカーラジオでニュース速報が流れた。
それを聞いて俺は不謹慎かもしれないが、思わずほくそ笑んでしまい…大急ぎで空港へと戻った。
どうやら今日の俺のツキは最強らしい。
空港に着きしばらくすると、最終便に乗ったと思しき乗客達がわらわらと姿を現した。みんな一様にげっそりとした顔付きだ。
これだけ人がいる中ですぐに田口を見つけられたのも幸いだった。
「よう、お帰り。」
笑いながら言ってやると、最初はひどく驚いた様子だったが途端に不機嫌な顔になった。
「何でお前がここにいるんだよ?」
「さっきラジオでお前の乗った飛行機が機体トラブルでこっちに戻るって聞いた。」
田口は大きく溜め息をついてぼやいている。
「ああ、もう…しょうがないなぁ。」
「大事故にならなくて良かったじゃないか。」
「そりゃそうだが…。まぁ、航空会社がホテルを用意してくれるらしいけど。」
「ウチに泊まればいいじゃないか。」
「えっ?!」
過剰な反応にちょっと首を傾げたくなったが、でもウチで飲み明かした方が都合がいい。
「んなの学生時代からやってるだろうが。今更驚く事じゃないだろ?」
「いや、その…花房さんが……」
そうか。そこを気遣ったか。ってか、こいつ俺と花房の事、知ってたんだ。
「…あいつはいないから。」
「ああ、今日は夜勤か?」
「そうじゃない。一緒には住んでいないって意味。」
田口がひどく珍妙な顔をしている。きっとこういう場合何と言うべきか悩んでいるのだろう。
「まぁその辺の話もあるからさ、ウチに来い。」
そう言って悩んでうだうだしている田口を車へ引っ張って行った。
自宅に人を呼んだのはいつのことだろう。もしかしたら、こっちに来てからは花房以外の人はここに来ていないかもしれない。
「適当に荷物、置いてくれ。」
独り暮らしのリビングはほとんど生活感が無い。その代わり自室は医学書やら出しっぱなしの服などで散らかし放題だが、別に見せる必要はないから問題ない。
田口は所在なさげにきょろきょろしていたが、荷物をソファの横に置いてちょこんと座った。
軽く食事も済ませて来たので、後は自宅で酒盛りなのはお決まりのコース。冷蔵庫からつまみになりそうな物とビールを取り出した。
「ほいよ。」
とグラスを握らせてビールを注いでやると、「ああ…」と呟き一口飲んだ。
どうも様子がおかしい。
疲れているとかではなく、緊張しているようだ。20年来の俺たちの仲で何を堅くなる事があるんだろう?
「…花房さんとは何で別れたんだ?その…話したくなければいいけど。」
突然その話題を振られて驚いたが、俺は正直に話した。
嫌いで別れた訳じゃない事。愛情の種類を見謝っていた事……
「まあ今じゃ、花房とは良い茶飲み友達さ。」
と茶化して言えば、
「でも良かった。…酷い別れ方じゃなくて、安心した。」
と本気で胸をなで下ろしている。やっぱり優しい奴。
「なに、俺が傷ついてると思って心配したのか?」
「馬鹿、お前の心配なんて誰がするか。花房さんだよ。彼女は一途で強いが…誰よりもお前を見ていたから。」
「…そう、だな。」
少しだけ彼女の凛とした姿を思い出した。
しばらく話をしてビールを程良く空けると、田口が潰れた。
飲むのは久しぶりなんだろう。量はそんなでもないのにあっと言う間に睡魔に持って行かれた。
ころんとソファに転がった寝顔。今日は寝顔ばかり見ている気がする。
「…ったく、しょうがねぇなぁ。」
苦笑と共にこみ上げる…温かい気持ち。車内で感じたアレと同じだ。
こいつと一緒にいるこの安らぎ。俺はこれが苦手だったんじゃないのか?
でも…今は?
田口の寝顔をまじまじと見つめる。規則正しい呼吸が胸を上下させている。さっきまでの緊張が嘘みたいに、無防備な姿を晒していた。
『愛おしい』
そんな単語が唐突に降ってわいた。その言葉は俺の中にストンとはまり、すべてのもやもやした感情が解消した。
「……参った。」
俺は思わず額に手をやってしまった。
これまで付き合った女は山ほどいる。しかしこんなに心底から愛しいと感じた事はなかった。
花房とのことだって、好きではあったが愛おしいとはまた違う気持ちだった。
しかし…
今感じているのは、今までにない新しい感情。
『愛おしい。無くしたくない。』
色恋に執着はあまり無かったが、こいつは失いたくないと思ってしまった。
そう、昔からこの気持ちはあったんだ。ただこいつの隣があまりにも心地よくて、それを認めるのが癪で、そして怖くて…苦手なフリをしていただけだ。
―――恋はするものではなく、落ちるもの。
そんな言葉が頭をよぎった。
そして目の前には…愛しい人が無防備に横たわっている。
ほら、手を伸ばせばすぐそこに……
つづく
機体トラブルは、きっと将軍の無意識怨念パワー…ぬぬぬ……(呪)
ここで予告。
え~、この先ピンクゾーンには入りませんから!今ピンクを書いたら、「えろばて」して確実に前に進めない。
期待してた方には先に謝っておきます。ごめんなさい!