進んでるようで、ちっとも進んでないという焦らしプレイ続行中。
では、以下からどうぞ☆
拍手パチパチもたくさんありがとうございます!!
すっごく嬉しいww
連載もあと少しなので頑張りますね。
Fall in love 5
【Side T】
……参った。何でこんな時に機体トラブルなんだ?
俺は心中でありとあらゆる悪句雑言を並べ立て、状況を恨んだ。
こんなはずじゃなかったのに…。今日の運勢は最下位だったのか?天中殺と厄日が一度に来たのか?
とにかく強制的に飛行機を下ろされ、CAのお姉さん達が平謝りする中を通って空港ロビーに戻ると…速水がいた。
最悪、と言っては速水には失礼だが俺は些か気分が悪い。完全に八つ当たりなのだが…。
「何でお前がここにいるんだよ?」
と問えば、
「さっきラジオでお前の乗った飛行機が機体トラブルでこっちに戻るって聞いた。」
と言われ俺は大きく溜め息をついてしまった。
「ああ、もう…しょうがないなぁ。」
「大事故にならなくて良かったじゃないか。」
「そりゃそうだが…。まぁ、航空会社がホテルを用意してくれるらしいけど。」
「ウチに泊まればいいじゃないか。」
「えっ?!」
それだけは避けたいので、花房さんをダシに断ろうとしたら聞き捨てならない事を言われ混乱した。
そして混乱、困惑しているうちに速水の車まで連れられてしまった。
強引に連れて来られた速水の部屋は、意外にも片付いていた。
たぶん、あまり帰って来られないのとしばらく一緒に暮らした人の名残りだろう。
そう思うと少しだけ胸が痛んだ。しかしそれ以上に速水と二人きりという状況に緊張していた。
抱えている思いは知られているはずはない。
だからいつも通りに振る舞えば良いだけなのに、普通にしようとするほどぎこちない。
返す言葉もつっけんどんになって、おかしく思われていないだろか…
花房さんとの経緯も聞いた。
酷い別れ方ではなかった聞き安心した。彼女は間違いなく速水の良き理解者であり、本当に速水を慕っていたから…。
しかしその反面、なぜつなぎ止めてくれなかったのかと言う思いもあった。彼女が隣に寄り添っていれば、もっと簡単に諦めもついただろうと言う自分本位な考え。
それが俺を自己嫌悪させた。
酒を勧められるがままに飲めば、久しぶりのアルコールな事もあって少しだけ気持ちが解れた。
しばらく他愛もない話をしている内に、段々と睡魔が忍び寄って来て…俺は陥落してしまったらしい。
きっと夢だろう。
速水が俺の事をじっと見つめている。とても優しい目だ。
夢の中でなら速水を独り占めしても、誰も文句は言わないだろう。
俺だけを見つめてくれるのが嬉しかった。
……ああ、やっぱり…好きだ。
この夢だけを思い出にして、心に鍵を掛けてしまおう。
それが最善だ。
そしてもっと深い眠りに落ちようとした瞬間。
頬への感触に、意識は一気に覚醒した。
速水が…俺を見つめていた。今までに見たこと無いほどの真剣な眼差しで。
そして彼の手は俺の頬に添えられている。
―――何だ…何なんだ、この状況は?
夢の狭間の都合のいい幻覚かと思ったが、頬の感触がそうでない事を物語っている。
俺は完全に凍り付き混乱した。速水の意図が分からない。
『その手をどけろ、気色悪い』と茶化して言ってしまえばいい。そうすればこいつも冗談だと笑って引くだろう。
それが…出来ない。言葉が出ない。
「田口。」
名字で呼ばれるのは久しぶりだ。それがまた緊張を高める。
「田口… 田口……」
「………」
速水のこんな切羽詰まった顔を見るのは初めてだ。
あの威風堂々とした将軍の欠片も見当たらない。
「…はや、……っ!」
名前を呼ぼうとした瞬間、今度は抱きしめられた。
「!!」
「…好きだ…… やっと自覚した。」
俺は今の爆弾発言に耳を疑った。今この男の内部で何が起きているのか、何を考えているのかが理解不能だ。
しかし混乱している俺なんかお構いなしに、速水は言葉を紡ぐ。
「多分…ずっと惹かれてた。俺はそれを悟られたくなくて、認めたくなくて……ずっと友人という安全ポジションで保身してた。」
「……。」
「花房にも言われた。俺がお前に断罪を託したのも、お前の処置を受け入れたのも…お前が俺の特別だからなんだと。」
「そん、な……」
「もちろんあいつの言葉はきっかけだったが、流されたワケじゃない。ちゃんと考えたさ、俺なりに。」
速水の言葉の端々からもどかしさが伝わって来る。
いつでも単刀直入の男が、自分の気持ちを伝えるのに言葉を必死で選んでいる。
しかし……
俺の中にふつふつと沸き上がって来たのは…怒りだった。
今まで俺がずっとひた隠しにして、これからも黙っていようと心に決めた事を、こんなに簡単にも暴こうとするなんて…
―――なんで なんで……今更!
そう思ったら一瞬の激情で頭に血が上った。
抱きしめる速水を押し返し、しかし今度は襟元を両手で掴んで引き寄せた。
本当にどうかしていた。
「何で今更そんなこと言うんだっ!俺の、俺の気持ちも知らな…!!」
そこまで怒鳴って我に返った。
……俺は今、何を…言った?
上った血が音を立てて引いていくような気がした。
目の前の速水は呆然と俺を見ている。そりゃそうだろう。
俺は今、『自分も好きだった』と告白したも同然なのだから……
「…おま、え……」
「済まない…聞かなかったことに」
「今更って…お前、まさか……」
俺は黙って俯くしかない。こぼれてしまった言葉はもう取り消すことは出来ない。後悔と混乱で泣きたくなった。
「……が …んだ……」
「え?」
速水の襟元を握ったまま胸にすがりついて、俺はこんな事しか言えなかった。
「お前が…悪いんだ。 お前が…お前が……」
壊れたレコードみたいに小声で繰り返すことしか出来ない俺の身体をを、速水は宥めるように優しく抱きしめた。
「ああ、そうだな。俺が悪い。気付いてやれなかったのも、今更言い出すのも…全部俺が悪いな。」
本当は違うのは解っている。ボロを出した俺が大バカだったのに…。
それでも… それでも、速水に縋ってしまいたいくらい俺の気持ちは動揺していた。
この男が好きだと言うことを隠せなかった。
そして速水が囁く。
「俺が全部悪くていいから… だから……」
俺たちは初めて口づけを交わした。
戻れない行為に、俺は自分の声が掠れるのを自覚した。
そして俺たちはこの夜、親友の一線を…越えた。