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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.133
2010/12/04 (Sat) 21:02:09

どうにか土曜日中にアップ出来ました。 …良かった。
いよいよラストになりました。
どうにかこうにか、息切れしながらも辿り着いた感じです。

言い訳、後書きetcは二度目日記のほうで…。

では最終話、以下からですww


拍手[30回]



Fall in love 7


田口は極北から帰るとすぐに万年床に潜り込んだ。
本当なら昨日の晩から読書三昧だったはずなのに、気分はそれどころではない。最悪だった。

身体も心もすべてが痛い。
そう若くもない四十を越えた大人が、その場の勢いだけで関係を結ぶなんて浅はかだった、と後悔に苛まれた。
田口は自分の事だけで精一杯で、速水の気持ちを考える余裕など欠片も無い。
勢いであったとは言え、速水は無責任に関係を持つような真似をする男ではないのに、田口はそれに気付けないほど自身を追い詰めていた。

田口は布団にくるまって堂々巡りの悩みを抱えている内に、睡魔に意識を奪われていた。
その間にも着実に嵐が近付いているなんて思いもせずに…。


ドンドンドンッ!


乱暴にドアを叩かれる音で田口は目を覚ました。
時計を見ると夕方に近い。休みのこんな時間に迷惑だと、田口は居留守を決め込む。

「おい、行灯!!いるのは分かってるんだっ!」
田口は思わず跳ね起きてしまった。
―――な、何で速水が?!
ドアが容赦なく叩かれ、速水の怒声が近隣に響く。
これは…恥ずかしい。相当な恥だ。
しかし今、顔を合わせる勇気は無い。このまま黙っていれば諦めるだろう。田口はもう一度布団を被った。

まだ乱暴な音が聞こえる。
田口の脳裏に速水の必死な顔が浮かぶ。多分…いや間違いなく自分を追って来たのだ。あの遠い極北から、あの忙しい男がわざわざ自分の為だけに。
そう思うと…自然と玄関に足が向かってしまった。

―――ガチャッ

ドアを開けるとそこには息も荒く、必死の顔の速水が立っていた。
「行灯…」
「……何で来た。」
その声は少しだけ震えていて田口の恐れが伺えた。
「悪いが入れてくれないか?時間がない。」
「じゃあ、帰ってくれ。しばらくは…会いたくない。」
「二時間だ。それだけ話したら嫌でもとんぼ返りだ。」
「その辺で暇つぶしでもしてくれよ。」
そう言ってドアを勢いよく閉めようとしたら、速水はドアの隙間に手を突っ込んで阻止しようとした。
「!っ、バカッ!!」
手は外科医の命だ。田口がとっさにドアの動きを止めると速水は強引に部屋へ進入し、後ろ手にドアを閉めた。
「おい!お前、何やって‥」
「こうでもしないと、お前と話せない。」
その顔が余りにも真剣で、田口は言葉が出なかった。

「二時間しかないから、単刀直入に言うぞ。」
田口は背を向けたまま動かない。
「お前はどうしたいんだ?」
「……。」
「お前は俺を求めていた。俺もお前を欲しいと思った。それが…求めていたモノが手を差し伸べてるのにお前はその手を取ろうとしないのは何故だ?」
全身で拒否している田口の肩が小さく揺れた。泣いているのかもしれない。しかし、速水は追求を止める訳にはいかない。ここで折れてしまったら、二度と田口は手に入らないという確信があった。
「俺はお前の事が好きだ。欲しいと思ったから、昨晩…」
「言うな、それ以上は…。」
田口からようやく出たのは拒否の言葉。でもその弱さは否定と言うよりも懇願だ。
「…嫌だったのか?俺はお前に無理強いしたのか?」
速水の声音に色々な感情が混ざっている。
悲しみ、怒り、戸惑い……
それを察した田口は大きく首を降って
「違う…違うんだよ……」
と苦しげな声で心中を吐露した。

「怖いんだ。男同士と言う事も、離れている事も…歪んだ関係は長続きしないんじゃないかって。ずっと想っているだけで良かったのに…形になったら壊れてしまいそうで……怖い。」

田口は慎重な男だ。それは時には臆病の裏返しになる。
「一度壊れてしまったら…友達にすら戻れない。それなら形にならない方がマシだと思った。」
「だから昨晩の事は無かった事にするつもりなのか?」
田口は答えないが、それが肯定であるのは明らかだった。
「…お前はどうしてそう悲観的なんだ。仮定の妄想だけで勝手に俺を切り捨ててくれるなよ。」
速水は少しでも田口の気を楽にさせるよう、わざと軽めの口調で話す。
「歪んだ関係か…。確かに男同士じゃ大っぴらには出来ないよな。でも、お互いに好きならそれだってありだろ。好きなら付き合いたい、セックスしたいと思うのが当たり前だ。俺もお前も間違っちゃいないさ。」
「お前は…勘違いしてるんだ。俺の感情に流されるな。」

田口の更なる否定の言葉は速水の逆鱗に触れた。

「お前、俺が何となくお前を抱いたと思ってんのか?同情でもしたと思ったのか?」
「はや‥」
「ふざけんなっ!俺がそんな安い気持ちで男に、しかもお前に手を出すなんて思ってたのか?!」
速水はもう我慢などしなかった。背を向ける田口に歩み寄り、強引に自分へと身体を向かせた。唇を噛んで何かに耐える顔に手を添えて、背くことを許さない。
「あの時、口火を切ったのは俺だ。お前の気持ちなんて欠片も知らなかった。それを知らずに同情なんて出来るか?俺は…俺の感情に従っただけだ。」
速水の強い視線が田口の揺れる瞳を、心を射抜く。
「俺は…俺の心はお前でないとダメだと騒ぎ立ててる。お前は違うのか?」
「速水…」
「俺はお前の中で替えが利くような存在なのか?」
「違う!」
田口は思わず叫んだ。決して…速水と替えられる存在など無い。何年も何年も、ずっと想い続けた大事な存在。
「そんな…替えなんて、利くはずないじゃないか……」
田口の両手が自然と速水の腕に添えられ、掴んだ。瞳には薄い水膜が張られている。
「お前のこと…お前だけを何年見て来たと‥思ってるんだよ。」
初めて自分から速水を求めた瞬間だった。

速水は満足そうに、そして優しい笑顔を浮かべた。そして田口を両腕で抱き込んだ。
「ようやく観念したな。最初からそう素直なら良かったんだ。」
「いいの、か…俺を選んでも?」
「当たり前だ。そうでなかったらここまで追いかけてなんて来ないさ。」
未だ不安そうな田口の背を、速水はあやすように軽く叩いてやった。

「俺は側にはいてやれない。向こうを離れるのもままならない。でも…お前をつなぎ止めたくて、どうしてもお前が欲しくて抱いた。」
「…大丈夫、分かってるさ。」
田口の声にはもう怯えの色は無かった。状況だけでなく、速水の心も自分の心も正面から受け止め認めた。
自然と腕が速水の背に回り肩口に顔を埋めると、どうしようもないくらい様々な感情が溢れ出した。
言葉にならない…とはまさにこういう事なのだろう。
それでも田口は
「…ごめん ……それと‥ありがとう。」
それだけを想いを込めて呟き、速水を抱きしめた。
速水は一瞬呆然としたが、すぐに破顔した。何の憂いもない純粋な喜びの、綺麗な笑顔だった。
そして田口の顔を上げさせて、キスを贈った。

「本当なら抱いて行きたいが…タイムアップだ。」
からりと笑いながら際どい事を言うので、田口は真っ赤になって「馬鹿」と呟くしか出来ない。
速水は玄関先で名残惜しそうに田口を抱きしめ、もう一度キスをして帰って行った。
残された田口に、もう不安の色はなかった。


―――大丈夫。一人だけれど…もう独りじゃないから。



おしまい

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