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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.368
2013/03/29 (Fri) 22:26:57

本日の更新はまあ、何と申しますか…
去年の秋に町内会の救命講習を受けた時の事を思い出しました。
『速水が救命講習を行ったらどうなるか?』と言う現象を説明したようなSSになっております(苦笑)。

人工呼吸…実際は色気の欠片もありませんよ。
溺れた後輩(男子)を助けて優しくキスするような人工呼吸を行う先輩(男子)…なんて事はあり得ません。
それじゃ助かりませんから(苦笑)。

拍手[13回]


将軍の救命講習

速水はここ数日、センター内で何となく不穏な空気を感じていた。大事故や災害の予感ではなく…強いて言えば、自分へ向けられる妙な雰囲気だった。

――ピロリン♪
間抜けな電子音を聞いたのは速水がロビーで気を抜いていた時だ。その方向を見ると五條が携帯を片手に立っていた。
「…おい、何してるんんだ?」
「え、友達からメールが来ただけですよ。」
この場所は携帯の使用は許されているエリアだ。怪訝な顔で言い返されてしまえば速水としても特に文句は言えない。
速水が黙って立ち去ると、五條はほっと胸をなで下ろした。そして携帯を操作し終わると「任務完了!」と呟きにんまりと笑った。


そしてふた月ほど経ったある日、速水と五條は極北市の市民会館にいた。速水の顔には不満がありありと見て取れた。
「もう、いい加減にして下さいよ。当日になっちゃったんですから。」
「何で俺が救命講習なんぞやらなきゃいけないんだ。」
「そりゃ救命医ですもん。」
「応急なら消防にやらせりゃいいだろ。」
「現場のプロに教わる機会があった方が一般市民の救命への意識も高まるって言うのが世良先生の狙いですもの。」
「…ったく、何であの人は横暴なんだ。」
―――それは世良先生だってこの人に言われたくないと思うわ。
五條は苦虫を噛んだような速水の顔をぼんやりと眺めた。
速水は溜息をついて仕方なく会館の入り口に足を運び、そこで初めて講習会のポスターを目にした。
そこには救急車やドクターヘリの写真と共に、小さくだが何故か自分の顔写真と名前が載っていた。ご丁寧に本日の特別講師なんて肩書きが添えられている。
―――こんな写真、俺は知らんぞ?
と思った瞬間、何ヶ月か前の不穏な空気を思い出す。と同時に携帯をいじる五條の姿が脳裏に浮かぶ。

この話を聞いたのはつい一週間ほど前だった。速水はかなり難色を示し抵抗したのだが、海千山千、世間の荒波に揉まれて来た世良に掛かれば、東城大で箱入りだった速水の言い分など子供のわがままに等しくなってしまい、結局は押し切られてしまった。
その時に「もうポスターに名前載せちゃったから」と言われたが、写真の事は何も言われなかった。

「……おい。」
かなり厳しい声音に五條は一瞬びくりとした。
「は、はい?」
「この写真はお前の仕業か?」
「え…」
突然の問いかけに五條は一瞬目が泳いでしまったが、速水にはそれだけで充分だった。

実は…
確かに写真をこっそりと取った五條だ。しかしそれは花房経由での世良からの依頼だった。
極北でも救命講座は年に一度くらいは開くが、お年寄りが多いこともあってあまり人が集まらない。しかし高齢者が多いからこそ少しでも大勢の若い人に救命講座を受けて知識の一端でも身につけて欲しいと世良は思っている。
そこで日曜の昼過ぎに時間を設定し、普段会社勤めの人や主婦にも来てもらおうと考えた。更に人寄せパンダとして見目『だけ』は良い速水の写真をポスターに添えて見た。あわよくばイケメン好きのおばさんも取り込もうと言う魂胆だ。
とにかく人が集まるのが肝心だった。講習の内容はもし速水が不機嫌でも、消防の方もいるから何とかまとまるはずだと考えていた。

「……。」
「あ、あの…」
速水はポスターを睨み付けるように、腕を組ながら仁王立ちで眺めている。
五條はここまで来て速水が帰ると言い出すのではと内心ひやひやしていた。が、予想外の言葉が聞こえた。
「…確かに一般市民も正しい救命方法は知っておいた方がいいな。救急車やヘリが到着するまで何かするのとしないとじゃ生存確率が大違いだ。」
「え、あ、そうですよね。」
突然正論を言い出す速水に五條は戸惑った。
「それには正しく迅速な方法を教えないといけないよな?へっぴり腰でもたつくような処置じゃ救える者も救えない。」
ここで速水がにやりと笑った。
「俺はな、ままごとみたいにお茶を濁すような講習はしないからな。やるなら徹底的にかつ迅速に、だ。」
獰猛な笑みを浮かべたまま速水は大股で会館に入って行った。その背中はさながら敵地に乗り込む将軍のような堂々たるものだった。
「え…ちょ、ちょっと待って下さい!」
その逆に速水を追う五條の背中には大量の冷や汗が流れていた。

「もう始まってるな。」
世良は時計を見てカルテを書く手を休め、座ったまま大きく伸びをした。
「あいつも外で少し苦労すればいいんだ。」
速水は以外と世間知らずなところもあるから、たまには一般人と交流すればいいんだと世良は考えている。
「ま、速水だけじゃないんだから問題ないだろうな。」
などと暢気に構えていたら、唐突に内線が鳴った。
出てみると市民会館で一緒に講習中なはずの消防職員からの外線だった。
非常に慌てていてすぐに来て欲しいと繰り返すばかりの切羽詰まった声音からただ事ではない状況と判断し、世良は病院を飛び出した。

「どうかしましたか?!」
慌てて駆けつけた世良を、入り口で待っていた消防職員が挨拶もそこそこに講習会場へと引っ張って行った。
そこで世良が見たのは……

まるで災害現場か野戦病院か…
「さっさとAED持って来い!」
「心マの位置が違うっ!!患者の肋骨折る気か?!」
和やかな講習会を想像してたのに、そこは速水の怒号飛び交う臨場感たっぷりの救急現場になっていた。世良は呆然と立ち尽くした。
確かに例年よりも人は多かった。去年はいなかった若い女性もちらほら見受けられる。速水の写真効果…かもしれない。
しかし写真の本人は鬼の形相でいくつかに分けられたグループの間を闊歩していて、講習を受ける市民は怯えながらも講習用のダミー人形相手に必死の様子で指示に従っている。
「もう何なんですか、あの先生!実習になった途端あの調子でみなさん怯えてますよ!」
若手の消防職員が涙目で訴え、世良は軽い頭痛を覚えた。
「あ、世良先生!」
速水の目を盗んで駆け寄ったのは五條だ。
「あ、五條さんだったね。これは…」
「もうダメです。ああなったら誰も止められませんよ。素人さんだからと言って手加減するような人じゃありません。」
「……。」
まさかこんなに速水が熱血だったなんて…
「…そうか、忘れてた。あいつは筋金入りの救急バカだった。まさか一般市民相手にここまでとは思わなかったけど。」
世良は魂が半分抜けたように呟いた。

「おい、五條!あっちの女どもがもたもたしてるからさっさと指導しろっ!」
「は、はいっ!」
彼女は慌てて修羅場へと戻り、その後ろでまた速水の怒声が轟く。
「ぶわっかやろう!人工呼吸はキスじゃねぇんだ!がばっと口を食う気でやれ!」

――― 一般市民にバカ野郎は無いだろう…
きっと来年の講習には誰も来ないだろうな、と漠然と思う世良だった。

おしまい

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