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愚痴外来の将軍×行灯推奨のSSブログです。たまに世良×渡海や天ジュノも登場。
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No.369
2013/04/02 (Tue) 21:19:12

桜の時期にどうにか間に合わせる事が出来ました。
本日の更新…桜と言えば天ジュノです。
今年はたくさん近所でお花見をしましたが、はらはらと舞い散る桜を見るとスリジエの表紙を思い出して少し切なくなります。

あの表紙は…綺麗すぎて哀しい;;

拍手[5回]


満開の桜の下で


天城と世良は満開の桜の森を歩いていた。見上げると所々木々の切れ間から見える青空に桜花が映えて美しい。
「やっぱり桜って特別きれいですよね。」
世良は足取りも軽く、春ならではの景色に少し浮かれているようだった。
「ジュノはご機嫌だな。」
「だって先生、桜ですよ?スリジエですよ!」
世良の目が輝きながら天城を捕らえた。
「スリジエハートセンターもきれいに花開くと良いですね。」
「ああ、そうだな。」
「先生の素晴らしい技術で一人でも多くの人が救えれば、センターは大きく育ちますよね。」
期待と希望に溢れる青年はなんて眩しいのだろう、と天城は思う。素直な歓喜に微笑ましさすら感じてしまう。

自分を取り巻く状況はかなり厳しいが、この美しさは浮き世の醜い争いを一瞬だが忘れさせてくれる。桜は古来、神の寄坐(よりまし)だったと聞いたことがある。ならばこの森は差し詰め神の結界の内なのか。清浄な気の満ちるここでしばし羽を休めるのも悪くはないと思ってしまう。
―――この私が弱気になっているのか?
天城はふとそんな事を思うがすぐに否定した。
―――時には立ち止まる事も必要だ。足下を、周囲を見回す余裕をを持たなければゲームには勝てない。
天城は純粋に桜を楽しむ世良を愛おしむように眺めた。桜の木々の間を軽やかに歩く姿はまるで妖精のようだ。
「先生!天城先生!」
離れた所から呼ぶ弾む彼の声が心地よかった。

「ジュノ、待ちなさい。」
天城が先を行く世良に声をかけるが返事が無い。
「ジュノ!」
大きな声で呼ぶと背後で気配がして振り向く。そこには世良が笑顔で佇んでいたが、それはすこし悲しげに見えた。
「どうかしたのか?」
「……ごめんなさい、先生。」
突然謝られて天城は一瞬面食らった。しかし世良は天城の戸惑いを無視して語り始める。
「俺は…先生の側を離れちゃいけなかった。先生を一人にしてはいけないって言われてたのに……守れなかった。」
「ジュノ?」
「そして俺は…いえ、俺達はあなたを傷付けた。あなたを理解しきれず、追い詰めてしまった。」
世良の顔が悲しみに歪んだ。
「ジュノ…君は……」
天城が困惑の表情で世良の肩に手を伸ばせば、触れた肩先は突然形を失い、そこから桜の花弁が舞い上がった。
「!!」
天城は驚いて手を引いたが、世良の輪郭は巻き起こる桜吹雪の中に霞んで行った。
「ジュノ!」
「…俺は…先生と共に……桜並木をつくり、たかっ…た」
世良の声も切れ切れになる。
「だ、か…ら お、れを……よん、で……」
その言葉を最後に桜吹雪は音もなく天高く舞い上がり…消えた。そして残骸の花弁がひらひらと落ちてきた。
天城は声を失って舞落ちて来る花弁に手を伸ばした。が、その伸ばした己の指先もまた花弁に変わり、徐々に指先から手の甲、腕の輪郭が失われて来た。
―――ああ、そうか。私はもう……
天城はここでようやく得心した。そしてそのまま目を閉じて、己が桜に浸食されて行くのに身を任せた。


目覚めた天城が見たのはいつもと変わらない自分の部屋。オテル・エルミタージュのロイヤルスイート。いつの間にかソファでうたた寝をしてしまったらしい。
覚醒後のぼんやりとした頭で夢を回想してみると、自然とほろ苦い微苦笑がこぼれてしまう。
―――きっと手紙のせいだろう。
世良から来る何通ものエアメール。返事は要らないとしていながら、言葉の端々に何かしら期待が伺える。

天城はテーブルの上の手紙の束を見つめる。
スリジエハートセンターの構想は終わった。しかし…もし出来ていたら、と夢想する事があるのは否めない。そしてそこに一緒に思いを馳せてしまうのは世良の姿だった。
世良は納得していないのだろう。事実、天城は彼を放り出すように去ってしまい、それですべてを終わらせようなどと言うのは無理な話なのだ。
今回の桜宮での出来事を天城の中で昇華させるには…世良の存在は不可欠だった。
日本には行かない。あの国は天城を必要としていないから。ならば…

―――彼をここへ呼べばいい。彼ともう一度ここで桜の夢の続きを見るのも悪くはないだろう。

海の見える美しい手術室で、世良を隣に置き執刀するのも良いだろう。
天城は世良を桜の苗木のように育てたいと思う。いずれは大樹となり、天城の精神を引き継いだ美しい花を咲かせる事になるかもしれない。
天城はおもむろに立ち上がりデスクに向かう。一瞬躊躇するが、紙にペンを走らせ始めた。
『親愛なるジュノへ』

手紙を書き終える頃、天城の心は一筋の暖かい光に照らされていた。

おわり

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